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社会を軽く見ているTV会議映像の公開

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

なんとチマチマと進む情報公開だろう。東電が、原発事故の際に現場と本社を結んでいたテレビ会議の映像を、報道機関に公開した。しかし、「見せろ、見せない」でもめ、そのあげくが、「プライバシー」を理由にした制限だらけの「黒塗りの公開」である。東電は社会を軽く見ている。

 公開された映像は、事故当日の3月11日夕方から16日までの160時間に限定されている。見ることができるのは事前に申し込んだメディア。東電社内に視聴用のパソコンが用意され、そこで見る。しかし、東電幹部以外の顔や名前が知られないように、多くの画面のどこかにぼかしが入っているような状態だ。発言も1665カ所が「ピー音」で消された。

 これは「公開」といえるようなものではない。テレビ会議映像の証拠保全を東京地裁に申し立てている東電株主代表訴訟の原告は、加工も編集もしない映像の証拠保全を求め、全面開示を求めている。

 朝日新聞では、まず、「報道の自由の観点から制限を容認することはできない」として、制限の撤廃を申し入れた。しかし、テレビ会議映像の内容を報道する必要性もあると考え、視聴し、報道している。

 各マスメディアは毎日、人を出してその映像を視聴している。これはある意味、ばからしい作業と言わざるを得ない。映像の中での会話については、東電があらかじめ、聞き取って、文字にした資料(分厚いので『電話帳』とよばれている)があり、それが、視聴室に置かれてある。ただ「完全かどうかわからないから」という理由で持ち出し禁止になっている。こんなやりにくい方法に加え、東電は当初、「視聴は5日間、各社の記者は1人ずつ」といっていた。それが抗議で一カ月になった。

 各社の記者は、映像を見て、東電の会話資料を見ながら会話を自分でメモし、それを社に持ち帰って検討し、報道している。生の映像の録音、録画は禁止だ。「電話帳」を配布するだけでも作業は大いに楽になる。逆に言えば、気が遠くなるような作業をさせることが一つの目的かもしれない。

 われわれメディアとしては、人手と時間をかけてこの作業をやっていくしかないが、そもそもこれは事故調の仕事ではないのか。政府や、国会の事故調が「完全版を提出しろ」となぜ言わなかったのか。

 各事故調はそれぞれの調査を終えたとしているが、「津波の前に地震がどれくらい壊したか?」など大きく見解が異なる点もあるのに、放置したままである。原子炉内の反応や放射性物質の放出など、事故がどう進んだのかの詳しい再現もできていない。

 テレビ映像にはこれらの解析に役立つ情報が入っているのに、少しだけ見て、宿題に飽いた子供のように「もう見た」とさっさと席を立ってしまった。事故調査は中途半端だ。そして原子力技術者集団はいつまでたっても事故解析に関心を示さないまま、「原発は日本社会に必要」というようなことばかり言っている。

 残念ながら、日本の国の民主化度の実態、原子力産業界や原子力学会など専門家集団の非独立度、実力のなさを感じざるを得ない。本当に事故を解析し、検証しようとする本気度と実力がない。

 東電の広瀬社長は、制限を加える理由を「社員を守るため」といった。映像に出てくる社員の映像が流出し、個人情報などが必要以上に明らかにされる可能性をいっているようだが、要は、時と場合と度合いである。今回の制限は見せたくない言い訳の方が大きいだろう。ピー音もぼかしも必要以上にやっている。墨で「黒塗り」された映像資料である。

 一方、映像の1.5時間の「要約版」をメディア用に公開した。「ハイライト集」か、「見せても問題のない場面集」か。これは各メディアのホームページなどで見ることができる。しかし、ピー音やぼかしがあるうえ、話が飛び飛びでわかりにくい。

 本当にこまかく編集している点は感心するばかりである。東電は、事故の真実に迫るより、「ここをぼかそう」「ピーを入れよう」などという作業に、社員の能力と組織力を使っている。

 しかし、さすがに、問題だと思う人も増え、新聞協会も「映像の公開は公共性、公益性が高い」として自由な取材を申し入れた。石原・東京都知事も同様の意見を述べた。

 それにしても、なぜ東電はこんなにエラいのか。考えなくてはならないのは、そもそも「テレビ映像資料」はどういう存在であるかということだ。福島原発事故では16万人が故郷を離れ、日本全体が直接間接の大きな被害を受けた。テレビ映像資料は、大事故の原因や検証に不可欠なものである。事故の詳細な進行プロセスや、それに人間の作業がどう関わり、正しい判断、間違った判断が行われたかが、まだ分かっていない。今や1企業の社内資料というレベルを超え、歴史の記録と検証に欠かせない世界の共有物だ。東電の手から離し、国のもの、社会全体のものとして、保全するべきだ。

 今のところ、メディアにとっても腹立たしい制限下での公開だが、それでも新しい事実が少しずつわかり、報道が出てきた。炉心溶融が起きて、炉が爆発の危険にさらされるなか、過酷事故の準備をしていなかったツケが一気に出て、あたふたとする現場の雰囲気、広報のずさんさもよく分かる。これまでに目に付いた各社の報道の概要をあげる。

1)3月14日午後4時57分、清水・東電社長が、最悪のシナリオを描いて対応することを現地に指示した。(これが、その後の清水社長から官邸への撤退をめぐる電話につながると思われる)(朝日新聞)

2)3号機での水素爆発の可能性が指摘されていたとき、勝俣会長は「国民を騒がせるのがいいかどうかの判断だけど。社長会見で聞かれたら否定するよ」と述べ、情報開示に消極的だった。(時事通信社)

3)3号機の水素爆発をめぐり、東電はそれが水素爆発かどうかの確認をしないまま「保安院がそう言っているんだから、いいんじゃないの。水素爆発で」と広報していた。(朝日新聞)

4)炉への海水注入について、「材料が腐っちゃったりしてもったいない」などの会話があった。(毎日新聞)

5)3月13日、3号機が水素爆発を起こす前日、たまった水素を逃がすため、ヘリコプターを使って原子炉建屋の天井に穴をあけることが検討された。本店社員は「火花が出て引火して爆発して同じだ」と反論。吉田所長も「水を入れている連中が真下で作業をしており危ない」と受け入れなかった。本店の別の社員は「荒唐無稽だけど、自衛隊に頼んで火器でパネルを吹っ飛ばしてもらえば」「だって、どの道、吹っ飛ぶよ」とも。(FNN)

6)15日午前7時40分すぎ、テレビ会議の画面に第一原発で撮った写真が映し出された。4号機原子炉建屋の壁と天井が吹き飛んでいるのをはっきりとらえた写真もある。政府と東電は事態の矮小化に走る。東電の第一報は「5階屋根付近に損傷を確認」との表現にとどまり、保安院は「壁の一部が破損した」と説明するに過ぎなかった。(河北新報)

7)14日、大熊町からの問いあわせへの回答について、東電本社の担当者が高橋フェローに相談。「可燃ガスが漏洩している可能性が否定できないと考えています」という案に対し、高橋フェローは「対策もどきをさ、もどきっていうか、防止対策についても検討を進めているとかさ、これ書けないのかな?」と意見を述べた。具体的なガスの漏洩対策がないにもかかわらず、住民に対策を取っているかのように見せかけようとしたものとみられる。(テレ朝)

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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