広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)
1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ちなみに環境首都コンテストとは、ドイツの非営利組織であるドイツ環境支援協会が主催し、コンテストに参加した自治体の環境分野での取り組みを総合評価してランク付けするもので、1989年から98年にかけて催された。
ドイツの環境首都と言えば、日本ではなんといってもフライブルクがよく知られており(1992年の第3回コンテストで1位になっている)、私も何度か訪れたことがあるが、今回は上記のような健康・医療の複合性という観点や、地域活性化の戦略という関心からエアランゲンを訪れてみることにした。なお、この都市については、現地在住のジャーナリストである高松平蔵氏の著書『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』(学芸出版社、2008年)が、きわめて包括的かつ具体的な情報を提供してくれた。
エアランゲンは、ミュンヘンの北方にある都市ニュルンベルクから電車で20分ほどのところにある小さな都市で、人口は10万人強である(ミュンヘンは約140万人、ニュルンベルクは約50万人)。とくに、1972年から96年まで4期24年にわたって市長を務めたハールベルク氏の時代に「環境」に力が注がれ、自転車道の整備や自然保護政策が進められるとともに、上記のドイツ環境首都にも選ばれている。
一方、96年に新市長となったバライス氏は、1)エアランゲン大学が有数の医学部をもつこと、2)シーメンスが医療部門の拠点をエアランゲンに置いたこと、3)今後の成長分野として医療・健康部門が期待されること――などの理由から(また前市長の時代との差別化を図るという戦略的な背景も加わって)、「医療都市Medizinstadt」の看板を大きく掲げることになった(高松〈2008〉参照)。さらに近年では、環境教育を含む教育政策を重点化している。
本稿のテーマである「環境と医療」という視点に立つと、エアランゲンは奇しくも「環境首都」でありつつ、やがて「医療都市」を掲げるに至ったという印象的な歴史をもつ象徴的なケースのように見える。
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