メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[10]内部被曝問題をチェルノブイリで考える

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

チェルノブイリ原発事故で大量の放射性物質が飛び散った範囲は、福島原発事故のそれよりはるかに大きい。場所ごとに影響度は一様でなく、しかも起きていることは複雑だ。福島事故後にチェルノブイリのことを懸命に調べたが、断片な情報を寄せ集めるようにして理解するしかなく、歯がゆい気持ちを抱いてきた。8月5日~12日までベラルーシ、ウクライナ両国を訪ねて、ようやく頭の中に時間と空間の座標軸ができた気分でいる。それまでは脈絡無くすべて一枚に描きこまれた絵だったのが、時間経過とともに変わっていく動画として見えるようになったといえばいいだろうか。内部被曝の問題も、なぜ矛盾するさまざまな情報が飛び交ってきたのか、その構造がある程度見えてきた。

 福島原発事故が起きた後、かなり早い段階で「内部被曝が怖い」という話は広まっていたと思う。チェルノブイリでは子どもたちに甲状腺がんが増えた、それは汚染された牛乳を飲んだせい、という情報も早い段階から伝わった。そして、「日本政府は内部被曝を軽視している。チェルノブイリでは厳しく規制しているのに」という主張も声高に語られた。

 日本政府が、食品に対する放射能規制を福島原発事故後にあわてて作ったのは事実だ。だから、事故が起きるまで政府が内部被曝を軽視していたということはいえる。だが、3月17日に厚労省は暫定基準を決め、即座に規制を始めた。検査で基準を超えた食品は廃棄された。生産者からは大きな反発が出て、消費者からは「検査漏れはどうなる」といった不安が出た。日本にいてよくわからなかったのは、こんなことは日本だけなのか、旧ソ連政府は日本よりちゃんと規制したのか、という点だった。

 現地を訪れてみると、

・・・ログインして読む
(残り:約2293文字/本文:約3008文字)