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「いじめ」という言葉の使い方(上)

認知意味論で考える

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 研究者にとって、言葉の定義を明確に、しかも、表現する現象を的確に捉えることは、最も基本的な能力である。この言語能力なくしては、オリジナルな研究をおこなうことはおぼつかない。

 専門用語ばかり使っている研究者に、自分の仕事を簡単な表現で説明するように求めると、とたんに答えられなくなってしまうことがある。本質を理解していないのである。また、ある現象を表すときに、その現象と言語的な解釈が結びつかない言葉や、定義の範囲が適切でない言葉を使うと、事態は混乱する。ある事象を表現する言葉が不適切では、現象を正確は理解し、対応することはできない。

 認知意味論などの研究でわかってきたことは、言葉は、我々の認識の枠組みに対応して生み出され、それが我々の思考の枠組みを決めていくということである。これは、この分野の大家であるジョージ・レイコフ(George Lakoff)が、著書“Woman, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal About the Mind”(University of Chicago Press, 1990=日本語訳は『認知意味論-言語から見た人間の心』紀伊国屋書店)で示しているように、各々の文化に依存した概念の枠組みと言葉の対応を丹念に調べた末の結論である。

 原題にある“Woman”と“Fire”と“Dangerous things”は、いずれもオーストラリア先住民の言葉、Dyirbal語(Djirubalとも呼ばれる)では“Balan”という一つの言葉で表されるものなのである。実際には、女性、火、カモノハシ、へび、さそり、などが同じグループを示す単語で表現される。

 本題に入ろう。ここで取り上げたいのは「いじめ」という言葉である。

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筆者

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき) ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長兼所長。1984年国際基督教大学教養学部理学科卒業後、日本電気に入社。88年米カーネギー・メロン大学客員研究員。91年、京都大学で博士号(工学)を取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、犬型ロボットAIBOなどの開発にかかわった。2008年に現職。NPO法人システム・バイオロジー研究機構会長を兼務。Computers and Thought Award (1993)、ネイチャーメンター賞中堅キャリア賞(2009)などを受賞している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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