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 今年もお盆に帰省した。かなり個人的な思い入れの強い話題になってしまうが、あらかじめご容赦頂ければ幸いである。

 オリンピックとよさこい祭りが重なった今年の高知県のお盆は、さまざまな意味で地震の影響を色濃く残した一年前とはすっかり雰囲気が変わっていた。にもかかわらず、少しずつであろうと、南海地震の来る日が近づいていることも確かである。

 高知県庁ホームページで公表されている「南海トラフの巨大地震による津波浸水予測について」によれば、私の実家も最大4~5メートル程度の浸水地域となるらしい。そもそも高知県の人々のほとんどは、山と海岸にはさまれた極めて細い領域に沿って住んでいる。大津波が来れば、ほぼ全県が壊滅的な被害をうけることは避け得ない。

 それを前提にどのような対策をとるべきかの検討は極めて困難な作業であり、私の出番はない。ただ出身者として、ぜひとも残してほしいものを思いつくまま列挙してみたい。

1)柚の酢(ユノス)
 職業柄、日本全国に出張する機会が多い。日本各地でおいしいものがたくさんあることに驚かされるが、個人的には、高知県の食文化は、北海道、博多、沖縄と並んでレベルが高いものと信じている。鰹のたたきと皿鉢料理(サハチとルビがふられることが多いが、本当はサアチとサーチの中間の発音に近い)は全国に知られているかもしれないが、それらの通奏低音をなすのは、柚をしぼってつくる「柚の酢」である。私は常々これを高知のソウルフードであると考えている。

拡大高知県のソウルフードの代表たるユノス=筆者撮影

 これを加工してポン酢しょうゆとして売り出し、全国的に有名にしたのが安芸郡馬路村農協である。人口千人足らずの典型的な過疎地が、年間30億円もの売り上げを達成している(ウィキペディアによる)とのことであるから、驚異的としか言いようがない。優れたアイディアさえあれば、田舎にも大チャンスが転がっていることを示す好例である。
 しかし、これではまだ「柚の酢」の神髄の一部しか伝えていない。高知県の寿司はこの「柚の酢」なしには考えられない。最近は県内のどこのスーパーでも「田舎寿司」と称して(当然私の子供のころには、単に寿司と呼ばれていたし、そもそも各家庭でつくるのが普通だった)、タケノコ、こんにゃく、みょうが、サバ、昆布、シイタケなどで巻いた寿司セットが売られている。しかも、1パックが300~400円程度という信じがたいほどの安さである。むろん帰省するとまず買って食べ、再上京時の電車内でも必ず食べる。「沖縄」の横で苦戦しているとおぼしき銀座の高知アンテナショップでもっと大々的に宣伝してほしいものである。私の稚拙な文章力では表現できないので、たとえば、高知市の観光ホームページの写真を御覧頂きたい。
 田舎寿司に限らず、柚の酢は、刺身、サラダ、鍋、飲料などあらゆる料理と相性抜群である。醤油とコラボした加工済み「ポン酢しょうゆ」だけではなく、そのオリジナルな味をぜひとも堪能して頂きたい。 ・・・ログインして読む
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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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