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地球倫理〈上〉若者が「世界実現」と言いだした

広井良典

広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

 ここ数年、私が身近で接している学生や若い世代の社会貢献意識や、とりわけ地域あるいは「ローカルなもの」への関心の強まりを感じてきたことについては、この欄でも折にふれて話題にしてきた。

 そうしたことと関連するのだが、しばらく前に、ソーシャル・ビジネスをテーマとするあるセミナーで、千葉大学を数年前に卒業し、小さな会社をつくって千葉市でITやSNS関連の事業をしている佐藤君という人が、自分が事業に取り組む基本的なスタンスとして、「世界実現」という言葉を使ったのが印象に残った。

 「世界実現」とは、大きくいえば「自己実現」に対比した言葉だ。「自己実現」というとどことなく自己愛的なニュアンスがあり、何か社会や人々に対して働きかけるのも、最終的には自分自身のためといった面がある。そうではなく、むしろ「世界」そのものをよい方向にしていく(=世界実現)のが自分の一次的な関心事である、というのが「世界実現」という言葉に込められた趣旨だったように思う。私にとってはずいぶん印象的で、セミナーのあと彼とひとしきりその話題について話した記憶がある。

 以上ともつながるのだが、先日、大学に入ってから何回かフィリピンでの子どもの支援活動に赴いたり、震災後は被災地によく足を運んだりしていた4年生女子のゼミ学生が、希望していた海外青年協力隊の試験に幸い合格し、来年からウズベキスタンに行くことになったという連絡のメールをくれた。それへの返事で、あまり深く考えることなく「ウズベキスタン行きが○○さんの自己実現のまた大きなステップになることを期待して・・・」といった感じの言い回しをしてしまったのだが、後になって、どうもここで「自己実現」という言葉を使ったのは、その学生の志向や行動様式からみてちょっと違っていたのではないかという思いが起こった。

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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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