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2012年の夏はかなり暑かったが、心配された関西電力管内でも停電はなかった。3・11前は日本に原発が54基あったが、今夏に動いたのは関電管内の大飯原発2基のみ。関電をはじめ各社の発電コストはかなり上がったがようだが、「やりくりすれば日本は原発がなくても停電しない」を証明する夏になった。今後は「稼働or停電」ではなく、安全性や発電コスト、さらなる節電の可能性など新たな要素で議論する段階に移る。

 夏前、関電は夏の最大需要を2987万キロワットとみていた。猛烈な暑さだった2010年から想定した。しかし、今回の最大は最高気温が36・7度になった8月3日午後の2682万キロワットと、11%にあたる300万キロワット少なかった。

 その日も関電は2992万キロワットの供給力を用意していたので、11・6%の余裕があった。もし大飯原発2基(計236万キロワット)がなかったとしても2756万キロワットの供給力があったので停電はおきなかった。しかし、関電や経産省は「大飯を再稼働させたからこれくらいで済んだ。再稼働の判断は正しかった」としている。

 本当に停電の危機があるのかどうかは、中部電力から西の6社全体で見る方が正しい。同じ60ヘルツなので、いざとなると融通できるからだ。6社合計した数字でも8月3日が最高の需要だったが、供給力の余裕は11・4%。余裕があった。

 これまで電力各社は「融通」をしない仮定で計算し、「関電が危ない」「九電があぶない」などと言っていた。これは過剰な危機感をあおっていることにもなる。6社全てが同じ日、同じ時間にピークになるわけもない。最近、「6社」で説明するようになったのは進歩だ。

図拡大日本の発電所の稼働率{負荷率)は低い。つまり無駄が多い。少し古いデータだが、以前から言われている。(IEEJの資料から)

 ほかの電力会社も軒並み余裕があった。最大電力需要に対する余裕は、北海道が9・7%、東北7・4%、東京7・4%、中部7・3%、北陸9・4%、中国10・4%、四国13・7%、九州6・9%だった。7~8月の総電力量(kWh)でも、四国が2010年より8・3%減、九州9・5%減だった。

 だれが減らしたのか。関電では猛暑だった2010年の暑い日のピーク時間帯のデータと今年のピーク時間帯のデータを比べて、どのくらい節電がなされたかを概算した。関電の発表データから推測も含めて分析すると、多少計算誤差はあるだろうが、次のようになる。

 今年の暑さで2010年のような電気の使い方をしていればピーク需要は2750万キロワットになっただろう。内訳は家庭が610万キロワット(22%)、業務が1140万キロワット(41%)、産業が1000万キロワット(36%)。この大ざっぱな数字でも分かるように、ピーク需要の貢献では家庭は小さい。家庭、業務、産業が1:2:2である。

 そこからどれだけ節電したかといえば、家庭が9%(55万キロワット)、業務が11%(125万キロワット)、産業が12%(120万キロワット)ほどだ。どの部門もかなり節電し、全体で300万キロワットも減った。

 関電も需要減らしのためにさまざまな試みをした。家庭では「7、8、9月の需要が昨年より10%減った家庭には1000円のクオカードを送るキャンペーン」をした。15%では1500円だ。

 また、時間帯別のさまざまなメニューを提案して、その家庭ごとに「得になり、ピークカットにもなるメニュー」を示した、関電管内では、どの時間帯にどれだけ電気を使っているかがわかるスマートメーターをかなりの家庭に設置しているので、こうした対応がすぐできたという。今後も継続的にやって欲しいものだ。

供給を増やす努力もした。すでに止めていた海南火力発電所2号機を動かしたり、火力の定期点検を遅らせたりした。しかし、瀬戸内海や大阪湾でクラゲが大発生して、火力の出力を減らすトラブルもあった。

 さらには、普通は夜に止める火力を24時間動かし、夜の電気で揚水発電所に水をくみ上げることもした。これによって、翌日の昼間に揚水発電ができる。(もちろん火力も動かす)。当然ながらやればやるほど大赤字だったという。さらに、他社の融通で買う高い電気でも揚水を行った。

 こうして何とか乗り切ったが、コストは大幅にアップした。クオカードなど需要面の対策で250億円、揚水や古い火力を運転する供給面の対策で200億円、他社からの融通で800億円……。とくに需要面では「我が社の電気を使わないようにしてください。そうすればクオカードをあげます」というキャンペーンなので民間会社としてはなかなかつらかったようだ。

この夏の節電から何を学び、何をすべきか。

 1)まず、原子力は大きく減らすことができるということだ。これはすべての管内でいえる。東京電力管内では、今夏の最大需要は8月30日の5078万キロワットで一昨年ピークより18%ほど減っている。

 西6社の7・8月の総需要を一昨年と比較すると、中部電力6・1%減、北陸電力6・0%減、関西電力11・1%減、中国電力5・0%減、四国電力8・6%減、九州電力9・5%減となっている。

 2)日本社会は「節電」のPRにきちんと呼応しているということだ。

 それなのに、経産省資源エネルギー庁は、9月4日、「大飯再起動がなくても、中西日本で電力融通すれば電力は足りた、との指摘があるが、「降雨量の増加による水力発電の供給増、日射量に恵まれた想定以上の太陽光供給量など想定を上回る供給増」「節電への協力、猛暑日が一昨年の半分以下など需要減があった結果」と、幸運を強調する発表をした。

 3)そうではなく、この程度の節電はこれからもやっていくという前提で、電気の需要、エネルギー政策をつくるべきだろう。今夏の需要実績を「今の日本の基本需要」と見るべきだ。

 各電力会社は「猛暑だった2010年夏のピーク需要」から供給計画を考えていた。もうそれはやめよう。その後、3・11があり、「原発を減らしたい」という民意がはっきりし、そして、国民は節電の呼びかけにこれだけ答えているのだから。

 4)多様な料金メニューを導入し、個々の需要家が選べる経済的な手法で減らす工夫をしよう。

 5)もう一つ、各電力会社は「夏の家庭の電力消費カーブ」を公表すべきだ。社会全体では午後2~3時が需要のピークだが、家庭は(留守がちで)その時間帯の消費は少なく、カーブは「谷」になっているはずだ。したがって、「大口需要家」「小口(中規模)需要家」「家庭」と分けたときの家庭の消費の寄与率は、東京電力などがいうような3分の1ではなく、もっと小さいはずだ。実際、関西電力は5分の1といっている。このカーブを出さないと、効率的な節電はできない。いいかげんに需要家の情報は需要家に知らせて欲しい。

 昨年、東京電力が節電のまとめを発表した際、私は、「暑い日の家庭の消費カーブを公表して欲しい」と聞いたが、東電の発表者は、しばらく相談した後、「そんなデータはない」と答えた。ホントですか?何千軒もサンプル調査をしていますよね?

 そもそも日本の発電所の稼働率(負荷率)は以前から低い。一日でみても、最大需要と最低重要が大きく離れている。ピークシフトができていないからだ。供給力不足にはピークシフトがまず必要だ。

 ともあれ、これから原発の議論では、「停電するから」は説得力がなくなる。「再稼働なしでは電力会社の経営がおかしくなる」「電気代が大きく上がる」など、停電以外の要素でも議論しなければならない。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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