メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

名前が読めない!

須藤靖

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 ほとんど知られていないと思うが、毎年8月下旬から9月にかけては大学院入試のシーズンである。入試では筆記試験に加えて面接試験が課されるので、受験生の履歴書を次々と眺めることになる。今年は2日間で約40名を面接するという忙しさである。そして年を経るにしたがって、受験生の名前が読めなくなってくることに気づく。決して自分の老化のため(だけ)ではなさそうだ。見たこともない名前が普通になりつつあるのだ。

 というわけで少し調べてみた。インターネットで検索してみると、明治安田生命による年別名前ランキングというものが見つかった。ただしこれは同社の生命保険加入者を対象とした調査であり、2011年(平成23年)の場合1位でもわずか20人程度。したがってランキングの順位は統計的にはあまり意味がない(同順位が多いのはこのためである。また別の団体の調査結果と比較すると順位は確かにかなりばらついている)。しかし、長い時代にわたる変化の傾向を知るという観点からはこのデータは極めて興味深い。

 1912年(明治45年・大正元年7月30日〜)、1927年(昭和2年)、1958年(昭和33年)、1989年(昭和64年・平成元年1月8日~)、2011年(平成23年)の5年間の順位を表にまとめておく(昭和元年は12月25日からなので、実質的な昭和の最初の年として昭和2年を選んだ。またあまり意味はないが私の生まれた昭和33年も選んでみた)。これらも含めた100年間の推移をまとめておこう。

●大正の前半までは女性の名前にカタカナを使うのはごく普通であったが、昭和になる前にその流行は完全に消え去っている
●かつては年号の漢字をとりこんだ名前が多かった(大正⇒正、昭和⇒昭、和)が、平成になるとその傾向は見えない
●昭和30年代頃までは、男性は漢字1文字、女性は漢字2文字の「*子」が一般的であったが、昭和後半から男性の2文字化、女性の脱「*子」化が顕著となる
●過去10年間以上にわたり、読み方を推測することが困難な名前のほうがむしろ主流となっている

 それにしても、昨今のトップ10の名前を正しく読める方がどのくらいいるものか。他人事ながらとても心配である。

・・・ログインして読む
(残り:約1005文字/本文:約1918文字)