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スタンフォード大だって寒村に創った

~沖縄科学技術大学院大学の挑戦

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の「売り」の一つは、最高水準の実験設備である。だが、高価な設備が自慢の種なのではない。より重要な特色は、装置には最高の性能を出すための専門家がついていること、そして、その専門家のアドバイスを受けながら誰でも使えるようになっていることだ。「大事なのは哲学(フィロソフィー)です。センターサービス、オープンアクセスという二大方針が、米国の最高の大学と比べても違うところ」とジョナサン・ドーファン学長は胸を張る。
SQCの部屋の前で説明する佐藤矩行教授

 例えばDNAの塩基配列を読み取るシーケンサーは、シーケンシングセクション(SQC)に4種類6台あり、12月にはさらに新型が入る。昨年、世界で始めてサンゴの全ゲノム解読に成功したマリンゲノミックスユニットの佐藤矩行教授は、「SQCにはパッション(情熱)がある」と評する。スタッフは5人、うち3人が博士号を持ち、2人が修士号を持つ。常に工夫し、改良し続けているところがヨソとは違うという。「これだけの規模でこれほど成果を出してくるという点で、僕は世界でトップだと思う」。

 電子顕微鏡もさまざまなタイプが揃う。「世界中の大学では、いい顕微鏡は鍵をかけた部屋に置いてあって、決まった研究室のメンバーしか使えない。ここは、誰でも自由に使えて、しかも博士号を持つスタッフに助けてもらえる」と、ロバート・バックマン副学長が説明する。

 OISTにとっては、目の前に広がる海も、オープンアクセスになっている研究資源だ。そして、分野の異なる研究者同士の協力が奨励され、お互いにコミュニケーションをとりやすいように部屋の配置なども工夫されている。海洋生態物理学ユニットの御手洗哲司准教授は、海洋学の殿堂ともいえる米国ウッズホール研究所に就職する予定をやめてOISTにやってきた。「研究予算に恵まれていること、目の前に海があること、そして普通の海洋学研究所にはいない分野の研究者がいて、学際的な研究ができることが魅力だった」と話す。

 多くの日本人にとって、「沖縄」と「世界最高水準の研究大学」はうまく結びつかない。日本の大学システムにどっぷりつかっていると、そういう発想になってしまうのだろうと思う。いったいどこの研究者が、どんな学生が、わざわざ沖縄まで行くのか、と。

 だが、

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