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九州のクマ、本当に「絶滅」したのか

米山正寛 ナチュラリスト

 環境省がレッドリストの改訂版を8月に発表した。ニホンカワウソの絶滅が大きく報じられた中で、九州のツキノワグマが「絶滅」とみなされたこともニュースになった。ただ、5月にはNGOの日本クマネットワークが6月から九州でクマの生態調査を実施するというニュースが朝日新聞で報道されていた。この調査はまだ継続中で、結論がはっきりと下されてはいない。そんな時に、なぜ「絶滅」なのか。九州のクマ問題の現状を整理しておきたい。

 九州のクマは、本州、四国にすむツキノワグマと同じ種だ。本州では毎年のように、クマによる人身被害や農林業被害が繰り返されている。そして数年に一度起こる大量出没の年には、多くのクマが捕獲されている。国内のツキノワグマ全体をみると、決して絶滅が心配な状況とは考えられていない。

 ただし、レッドリストでは、一部の種の地域個体群に対する評価もなされている。ほかから孤立した状態の地域個体群は、遺伝的な多様性が少なくなったり思わぬ原因で個体数の急減に見舞われたりして、絶滅のおそれが高まりやすい。2007年のレッドリストで、ツキノワグマは下北半島、紀伊半島、東中国、西中国、四国、九州が「絶滅のおそれのある地域個体群」として挙げられていた。

 今回の改訂では、その中から九州の地域個体群が削除された。これが国による九州のクマの「絶滅」宣言となった。九州でクマの最後の生息域と考えられたのは大分、宮崎、熊本3県にまたがる祖母傾山系だ。実は、すでにこれら3県は県のレッドデータブックなどで、ツキノワグマを「絶滅」扱いとしていた。従って今回、国の認定がやっと追いついたとも言える。

 環境省が九州での「絶滅」を判断したのは、2010年に発表された研究結果が大きい。九州での最後の捕獲例とされていたのは、1987年に大分県豊後大野市で射殺されたクマだった。ところが森林総研などのグループがそのDNAを解析したところ、本州に由来するクマだと結論付けられたのだ。解析の結果、DNAのパターンが西中国や四国のものに近ければ、九州本来のクマでないとは断定されなかっただろう。しかし、結果は福井県~岐阜県付近のクマに近いものだったため、本州のクマが人為的に運ばれたものとみなされた。「連れてこられたクマが飼育されていた」「子グマを山に放した人がいる」といったうわさ話は、九州でもかなり流布していたのだそうだ。

1987年に九州で見つかったクマのはく製=大分県の豊後大野市歴史民俗資料館、丹治翔撮影

 この1987年のクマが九州産ではなかったとなれば、九州のクマの記録は1957年までさかのぼる。つまり、すでに半世紀を越えて確実な記録はないということになる。

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