山極寿一(やまぎわ・じゅいち) 京都大学総長、ゴリラ研究者
京都大学総長。アフリカの各地でゴリラの野外研究に従事し、その行動や生態から人類に特有な社会特徴の由来を探り、霊長類学者の目で社会事件などについても発言してきた。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『暴力はどこからきたか』(NHKブック ス)、『ゴリラは語る』(講談社)、『野生のゴリラに再会する』(くもん出版)など。
ポレポレとは、現地のスワヒリ語で「ゆっくり」という意味である。成果をあせらず、現地に適した歩調で進もうと思ったからだ。ふつう発展途上国の自然保護活動は、先進国の資金援助と技術移転によって行われる。保護の理念に精通したエキスパートが派遣されてきて、現地のアシスタントを教育し、徐々に賛同者を増やしながら環境教育や植樹運動などを実施する。しかし、先進国からの援助が途絶えると保護活動も著しく減退する。ポレポレ基金は、その反省にもとづき、あえて先進国の指導を仰がず、地元主導の自然保護活動を目指した。そのため、成果をあせって自滅しないように心がけたのだ。
なぜ、そこまで地元主導にこだわったかというと、野生ゴリラの研究の先駆者でアメリカ人のダイアン・フォッシー博士が、1985年に隣国のルワンダで殺害された事件があったからだ。私は1980年代前半にフォッシー博士の指導を受けてゴリラの調査をした。フォッシー博士は野生のゴリラと初めて親しくつき合うようになった人間で、多くの研究成果を上げたが、ゴリラを保護するために地元住民と激しく対立した。
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