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 製造業を中心に、いまの日本の企業や産業技術がとりうる戦略は、以下の二つのいずれかだろう。

(1)付加価値戦略……低価格つまり「安い」ということではない点で競争力をもつような製品やサービスを開発すること
(2)ローカル化戦略……むしろ地域(ないし国内)内で循環するような製品やサービスを重視していくこと(あるいはそうした制度的なしくみをつくっていくこと)

 もちろん(1)と(2)は複層的であり、たとえば地域固有の伝統技術などをブランド化していくことが国際競争力につながるといったケースは当然ありうる。逆に、農業生産物や生鮮品などは、際立った特徴や対外競争力がなくとも「その地で生産されている」こと自体が強みとなって少なくとも当該地域では十分に消費されるということもありうる。

 さて、ここで注意してみたいのは、(2)のローカル化戦略は実は「サービス化戦略」という要素を含んでいる点だ。

 すなわちサービス、とりわけ対人サービスは、もともとモノのように一つの場所から別の場所へ自由に移動するものではないので、本来的に「ローカル」であり、「地域で循環する」という性格をもっている。単純な例では、たとえば美容室のようなサービスやカフェなどを考えればよい。

 またやや余談めくが、名古屋発で最近首都圏にも「進出」しているコメダ珈琲店――私は先日名古屋でその第1号店を訪れる機会があった――などは「高齢者の居場所の提供」ないしコミュニティ空間づくりといった、現代では重要な意味や大きなニーズをもつ付加価値を、ローカル・サービスとして提供していると言えるだろう。

 ちなみに、ドイツの環境関連のシンクタンクであるヴッパタール研究所が出した『地球が生き残るための条件』では、今後、経済のグローバル競争が強まるという論が一般的だが、しかしこれからの時代はサービス(とくに地域サービス)の比重が一層大きくなっていくのであり、「修理、幼稚園、生産用具の賃貸などのサービスは輸入しようもない」ため、グローバルな競争圧力は言われているほどには上昇しないと論じている(ヴッパタール研究所編〈2002年〉)。これは日本の議論などで意外に見落とされている論点ではないだろうか。

 加えて日本の場合、経済全体(GDP)に占める輸出入の割合は10%強で、ほかの多くの先進諸国やアジア諸国と比べた場合、実はもっとも「低い」部類に入るという点も、もっと注目されるべき事実関係である(ヨーロッパやアジアの多くの国々の貿易依存率は3~5割に及ぶ)。つまり日本は国際比較で見ると「内需」によって支えられている割合の大きい国なのだ。高度成長期を中心に、日本の「貿易立国」イメージ、つまり貿易によって成り立っている国という面が過度に強調されてきたとも言えよう。 ・・・ログインして読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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