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クルマと半導体の競争力にこれほど差がついた真の理由

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

経営不振に陥っているルネサスエレクトロニクスを巡って、米投資ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)と、産業革新機構を筆頭にトヨタ、デンソー、パナソニックなどが共同で出資する官民連合が買収争いをしている。

 官民連合の言い分は、もしKKRが買収したら「下請けの立場に甘んじてきたルネサスが国際相場に合わせて車載マイコンの値上げを要請してくることを警戒し(クルマメーカー)、低採算事業が切り捨てられる可能性があり、その中には日本の最終消費者にとって非常に重要なものが含まれていることもある(政府関係者)」と実に身勝手だ。

 結局、官民連合は「ルネサスにはこれまで通り、自分たちの言う通りのものを自分たちに都合の良い価格で作ってもらいたい」のである。そんな官民連合より、KKRに大胆な経営再建を行ってもらった方がましだ。

 そのルネサスは9月18日~26日に目標5000人の早期退職希望者を募集したが、初日だけで目標5000人を大幅に上回る7511人の応募があり、あっという間に応募を締め切った。早期退職に際しては通常の退職金に加えて給与の36か月分がプレミアとして上乗せされる予定だったが、予想以上に希望者が殺到したため原資が足りなくなくなり、何と「36か月のプレミア分は来年の9月に払う」ことになったらしい。

 現ルネサスが、1年後もルネサスとして存続している保証はない。仮に存続していたとしても、今足りない早期退職費用を補充できているかどうかは極めて怪しい。したがって、「36か月のプレミア分」が支払われる保証もない!

 しかし、どうして日本半導体はここまでヒドイ状況になってしまったのだろう。

 半導体チップの製造には500~1000工程ものフローを必要とする。そして工程間には相互作用がある。したがって、1000工程中、一工程でも問題が発生するとチップは全く動かず全滅する。すなわち、半導体製造には、クルマと同様に、高度なすり合わせ技術が必要なのだ。

 経営学者やジャーナリストには「半導体チップは製造装置を並べてボタンを押せば誰でもできる」などと発言する者がいるが、大きな間違いである。確かに半導体工場を見学すれば、数百台もの装置が並んでいて、数百人のオペレーターたちがボタンを押す光景を見ることになる。しかし、「500~1000にも上る工程フロー」は見ることができない。だから上記のようなおよそ実態とかけ離れた発言をするものが後を絶たないのである。

 問題は、同じように高度なすり合わせ技術を必要とする産業であるにも関わらず、クルマが世界的な競争力を維持しているのに対し、なぜ半導体はこのように凋落したのかということだ。

 先日、

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筆者

湯之上隆

湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

1987年京大修士卒、工学博士。日立などで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、各種雑誌への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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