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ドイツ風力発電産業の最先端

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

ドイツは、福島の事故を受けて、昨年6月に2022年までの脱原発を最終的に決定した。その理由は、(1)原発は事故が起きた場合のリスクが大きすぎる、(2)原発以外の安全なエネルギー源がある、(3)省エネと再生可能エネルギーを進めることがドイツ経済の競争力を強めることになる、と総合的に判断したからである。このうち最後の判断の具体例として、ドイツ風力発電産業博覧会を紹介したい。

 1年たって、10年以内の脱原発という目標については、すでに国内での論争はなく、問題は温暖化対策との両立に焦点が移っている。とくに、建物断熱と自動車からの排ガス削減が鍵を握っている。

 脱原発を決めたドイツにとって、風力発電は原発にかわるベース電力を供給する柱である。とくに、洋上風力発電はドイツの国家プロジェクトとして大きな期待が寄せられている。そうした風力発電が一大産業となっていることを示すのが、風力発電産業博覧会である。今回、9月18日から22日にドイツ北海沿岸のフーズムHusumで開催されたWind Energy Trade Fairには、30か国から1200社の出展で、8会場約90か国4万人が参加した。

 電気産業界のリーダーであるSiemens社は、多くのブースを出し、4大電力会社も再生可能エネルギー利用をアッピールしていた。産業博覧会の出展者は、風力発電機の専門メーカーであるEnercon社、Vestas社を先頭に、1万点に及ぶ各種部品メーカー、ケーブルメーカーのみならず、風力発電のサポート部門、立地調査、気象観測、メンテナンス、安全関係のサービス会社、専門人材育成会社、金融会社も顔をそろえ、風力発電の関連会社の裾野の広がりを示すものである。

 ドイツの伝統的な機械、電気産業を基礎として、新しい産業展開の方向性を示すものである。太陽光パネル産業が競争力を失うなかで、ドイツ産業の成長部門として期待されていることがよくわかる。

 ドイツ風力発電産業にとって、最大の課題は北海とバルト海に計画されている洋上風力発電プロジェクトである。沖合20km、水深40mの厳しい条件に置かれる洋上風力発電は、送電線の施設も含めて、難問が山積して、進行は遅れ気味である。

 しかし、ドイツの総力を結集して進められ、造船技術の応用、海底油田開発技術の応用・拡大としても面がある。Siemens社は、デンマークのBonus社を吸収したうえで、さらに総合力、競争力を発揮して、発電・変圧・コントロール・送電・電力技術全体の強みを発揮しようとし、ギアレス風力発電機も開発している。

 これに対して、Vestas社は、たんなるデンマークの会社ではなく、ドイツの会社として根づき、洋上風力発電も目指して、競争力の強化のために三菱重工との提携交渉も進められている。ドイツ国内シェア第1位のEnercon社は、鋳造からはじめて伝統的な機械技術を活かして、ギアレス型風車とメンテナンスでドイツ国内第1位を確保しているが、洋上風力には参入していない。

 今回の風力産業博覧会のもう1つの特徴は、風力発電関連部門の広がりの大きさである。部品メーカー、磁石メーカー、計測コントロール機器メーカー、洋上設備、支援船部門、気象予測、落雷対策、訓練、安全、人材育成部門、立地調査とコンサル、金融と保険部門など、広範な分野に及ぶ。それに加えて、各州政府、連邦政府の政策的支援が手厚く行われ、かつ4大電力会社も国策としての風力発電に対する積極的姿勢をアッピールしている。

 最後に強調すべきは、アジア、とくに中国と韓国のメーカーの積極的な進出である。すでに年間で世界最大の風力発電設置国となった中国からは、風力発電メーカーのみならず、磁石メーカーや車両メーカー(南車グループ)が顔を出し、海外市場も狙っている。韓国も現代グループとサムソングループが洋上風力発電プロジェクトを打ち上げている。

 これに対して、日本メーカーの参加はわずかで、日の丸の国旗も会場には掲げられていない。三菱重工(ヨーロッパ)は、NEDOプロジェクトの洋上風力発電の宣伝を行い、NTNベアリングは、買収したフランス系ベアリング社会とともに登場していた。

 「原発ゼロ」への反対意見として、日本が原発を止めても、中国と韓国が原発市場を拡大していくといわれているが、中国と韓国は原発と同時に、再生可能エネルギーとしての風力発電に対しても、予想を超えて積極的に進出している事態を直視すべきである。

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