2012年10月16日
ミクロの世界に特有の量子力学的性質を使えば画期的なものができると期待されているのがコンピューターと時計だ。ほとんど不可能だった計算ができるようになる「量子コンピューター」や、精度のきわめて高い「光時計」ができることが理論から予言できている。
しかし、量子力学的性質はきゃしゃなもので、外部の相互作用が紛れ込むと簡単に壊れてしまう。壊れないようにするには、電子や光子を外部の環境からしっかり隔離しなければならない。そのために受賞者たちは、電子や光子を閉じ込めた。そして、閉じ込めた電子や光子を、外部から自在に操作したり、その状態の情報を読み出したりできることを示した。大切なのは、この操作や読み出しの過程でも、量子力学的性質をできるだけ壊さないようにすること。そこに新たなアイデアが必要だった。
米国立標準技術研究所のデビッド・ワインランド氏は、イオントラップと呼ばれる手法(この手法を開発した二人は1989年にノーベル物理学賞を受賞した)を使って、数個のイオン(電荷を帯びた原子)を閉じ込めた(トラップした)。そこに、注意深くレーザー光を当てた。すると、イオンの中の電子の状態を、量子力学的性質を保ったまま、光子で操作したり読み取ったりできた。これは、量子コンピューター実現への第一歩となる成果だと注目を集めた。
他方、コレージュ・ド・フランスのセルジュ・アロシュ氏は、電子ではなく光子の方を、空洞共振器と呼ばれる装置を使って閉じ込めた。そこに原子を通過させて、光子が何個あるかという情報を、原子の中の電子の状態に「転写」した。その電子の状態を測ることにより、光子の数の情報を読み出したり、光子の状態を操作したりすることに成功したのだ。このときのポイントは、光子の数を変えることなく測る方法を編み出した事にある。こうした測定は「量子非破壊測定」と呼ばれる。
量子力学では、何かを測定すると、測られた対象の状態が乱されてしまう、という問題がついて回る。このとき、状態は乱されるにしても、測定した物理量の値だけは変えないようになっているのが、量子非破壊測定だ。
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