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「原発ゼロ方針」への批判、敵を見誤るな

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

「2030年代の原発ゼロをめざす」。野田政権がうちだした新方針は、戦後のエネルギー政策を180度変えるものだ。しかし、評判が悪い。「脱原発と核燃料サイクルの継続は矛盾している」「どうせ選挙用だ」などなど。確かに中途半端で弱い政策だ。しかし、「これだから民主党はダメだ」と冷笑し、矛盾点を突いて新方針を潰すだけでは、多数の原発の再稼働を望む動きと同じになる。よく考えなければならない。原発を減らしたいならば、何をすべきかを。

 今回の新方針をつくりだしたのは、「原発を減らせ」と盛り上がった世論だ。政府はそれに押されて、予定外の「脱原発」にまで踏みこんだのである。ただ、すっきりとした脱原発シナリオを求めるまで民意は強くなかったし、政権も国内、米国などの圧力の中で、そこまで日本をまとめる力がなかった。

 「新方針」の矛盾は、原発政策についての日本社会の分裂をそのまま表している。いまやっと政権が「原発ゼロ方針」をだすところまできた。その旗は頼りなく立っている。今後「原発が減る方向」に動くか、「多数が再稼働して元に戻る方向」に動くかは、これからの議論にかかっている。「原発を減らそう」という民意が大きくなれば、政策もいっそうその方向に動くだろう。

 今回の新方針「革新的エネルギー・環境戦略」は、9月14日、政府のエネルギー関係閣僚会議である「エネルギー・環境会議」が発表した。内容は次のようなものだ。

 《1》【原発に依存しない社会の1日も早い実現】2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。

(1)それを実現するための3つの原則

「40年運転制限を厳格に適用」「規制委員会の安全確認を得たもののみを再稼働する」「原発の新増設は行わない」

(2)実現に向けた5つの政策

1:核燃料サイクル政策

・国際的責務を果たしつつ再処理事業に取り組む。関係自治体や国際社会とコミュニケーションを図りつつ、責任をもって議論

・直接処分の研究に着手。もんじゅは高速増殖炉開発のとりまとめ、廃棄物の減容等をめざした研究を行うこととし、年限を区切った研究計画を策定、実行し、成果を確認のうえ、研究を終了

・バックエンド事業は国も責任をもつ

2:人材や技術の維持・強化 3:国際社会との連携 4:立地地域対策の強化 5:原子力事業体制と原子力損害賠償制度

《2》【グリーンエネルギー革命の実現】2030年までに1100億kWh以上の節電。7200万キロリットル以上の省エネ。水力を除く再生可能エネルギー設備容量は1億800万kWで現在(900万kW)の12倍にする。

《3》【エネルギー安定供給】30年までにコジェネを1500億kWh(現在の5倍)導入。

《4》【電力システム(送電線)改革の断行】(本年末をめどにつくる)

《5》【地球温暖化対策の計画】(本年末までにつくる)

 一般には原子力のことばかりが報道されているが、このように自然エネルギー増加も強調されている。しかし何と言っても、その核心は「2030年代に原発ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」。つまり、「30年代に原発ゼロをめざす」である。外国の報道機関もいっせいに「2040年までに日本が原発をフェーズアウト(廃止)」とニュースを流した。

 これまでの日本の原子力政策は、原発を増やすことしか考えず、「政策を変える意思もなければ、変えるシステムもない。あるのは前例踏襲の慣性力だけ」といわれてきた。政策の大転換である。

これを生み出したのは二つの力だ。一つは、今も16万人が故郷を離れざるを得ない福島原発事故の衝撃。もう一つは、そのあとに盛り上がった「原発を減らそう」という社会の意識、民意だ。

 原発事故後、政府は「原発政策についての国民的議論をしよう」と訴えてきた。その中で、議論しやすいように、「2030年に電力の原発依存を何%にするか」という選択肢での議論を提起してきた。「2030年にゼロ%」「15%」「20~25%」の三つである。

 この3案が提示されたときには、だれもが「まあ15%に落ち着くだろう」と思っていたが、議論を進めるうちに、「ゼロ%」を求める声が大きくなったため、政府もそれを強く反映させた内容にまとめた。「30年にゼロ」というのは、過去の路線と比べてちょっと劇的すぎるので「2030年代にゼロ」という形にしたものだ。

 過去の日本の路線と比べれば、「ゼロをめざす」は大変なメッセージである。

ほんの2年前、2010年のエネルギー基本計画では「2020年までに9基の原発を建設、2030年までに14基を建設」を掲げ、30年には発電の半分を原発でまかなうとしていたのである。今回の方針は、走っている電車を止め、さらに逆方向に動かすような大転換だ。

この方針について「具体的な削減のロードマップがないではないか」という批判がある。私も記事で主張したこともある。しかし、それはあまり重要ではないだろう。大事なのは、まず「旗を立てること」である。その旗をみて、国民が納得して支持が集まれば、その方向に政策が具体化される。国民が支持しなければ、旗は倒れるだけだ。

 「原発ゼロ方針」に付随する最大の問題は核燃料サイクルだった。日本が脱原発の方向にいくのであれば、ウランを節約するためにコストをかけてプルトニウムを取り出す再処理・サイクルは意味を失うことになる。

 しかし、新方針では明確に「核燃料サイクル政策の継続」をうたっている。

 最大の理由は青森県の反対だ。核燃料サイクルの施設が立地する青森県は、サイクルが止まるのであれば、県内にある原発の使用済み燃料を各原発に持って返ってもらうと主張している。

 より緊急の課題は、英国から返還される高レベル廃棄物だった。日本は、六ケ所再処理工場を建設する前、英国とフランスに約5000トンの使用済み燃料の再処理を委託した。すでに再処理は終わっているが、再処理で出た高レベル廃棄物が両国から返還されることになっており、英国からの返還時期が近づいていた。それを当面置く場所は、国内では六ケ所しかない。これを拒否されると混乱する。

 こうした青森県の反対と、それを支持する勢力を説得することができず、「サイクルは継続」とするしかなかった。高速増殖炉「もんじゅ」も原案では「廃止」と書かれていたが、「少なくとも当面は動かす」内容になった。

 外国からの圧力もあった。政策発表3日前の9月11日、英国の駐日のデビッド・ウォレン英国大使が藤村官房長官に面会し、「我々は憂慮している。きちんと引き取って欲しい」と伝えてきた。13日にはフランスのクリスチャン・マセ駐日大使が官房長官を訪ね、同じことを求めた。両国とも日本の核燃料サイクルと密接な関係をもっている。政策変更は望んでいない。

 最大の圧力は米国からだった。米国には、長島昭久首相補佐官と大串博志内閣府政務官が発表直前に訪米し、ホワイトハウス、国務省、エネルギー省を回った。

 米国側はまず、「その新政策はどんな形(formality)で決定するのか」を気にした。1)法律をつくるのか2)閣議決定するのか3)その他の方法なのか、ということだ。

 そして、米国ではホワイトハウスもエネルギー省もどこも口をそろえて新方針への不賛成、懸念を表明した。そして、「法律や閣議決定といった強固な形で決定すると将来変えられなくなるから避けたらどうか」と言った。

 米国はいま日本が脱原発に動くことに賛成していない。そして、核不拡散の観点からいえば「原発をやめるが核燃サイクルを続けるという選択も認められない」ということだ。

 プルトニウムは核兵器材料だ。日本は、原子力の平和利用に徹し、「プルトニウムを取り出してもプルサーマルで最後まで燃やす」という形をとっているから、米国は「特別」に日本の再処理・サイクルを認めてきた。

 「しかし、脱原発といいながらプルトニウムを取り出すとなれば、イランや北朝鮮に説明がつかないではないか」ということだ。

「だから、あわてて劇的な政策をとることはやめて、緩い政策にしておけばいいではないか」ということである。

 米国は原子力産業の将来も心配している。今や原子力メーカーは日本と米国の提携が進んで、ほとんど運命共同体になっている。日本の国内市場がなくなってメーカーに力がなくなれば米国メーカーの力も落ちる。

 今後、原発建設の国際市場でロシアと中国が台頭してくるのは間違いない。その中で日米の力が落ちるのは、安全保障の観点からもよくない、ということだ。

 新方針への米国の反対は明確なものだった。「内政干渉はしない」と言いながら、十分にその役割を果たした。野田政権がこの方針を閣議決定しなかったのは、米国側からのプレッシャーが決定的だった。

米国内にもさまざまな意見があるだろうが、今回の場合、一言で言えば「脱原発なんてやめておけ、そんな大転換を軽く決めるな」ということだ。

 米国の日本政策に詳しい米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・ハムレ所長が、野田政権が新方針を発表する直前、日経新聞(9月13日)に意見を投稿している。

 その中で、「国家安全保障上の観点からも日本は『原子力国家』であり続ける必要がある。今後30年間で中国は75から125基の原子力発電所を建設する。日本が原発を放棄し、中国が世界最大の原子力国家になったら、日本は核不拡散に関する世界最高峰の技術水準を要求する能力も失ってしまう」「福島第一原発での災難は日本政府にとって屈辱的なものだった。だからといって、これから進むべき道が原子力の放棄になるわけではない」

 米国は日本をアジアにおける戦略的パートナーとして重く見ている。原発問題は日米同盟、世界の核管理、中国への牽制力維持などに深く関連し、簡単に止められるものではない、ということを言っているのである。

 こうした考えは、12年8月にCSISから公表されたリチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ氏の共同論文「日米同盟/アジアの安定を支える」(一般に「アーミテージ、ナイ報告」といわれる)でも強調されている。

「原子力はエネルギー安全保障、経済成長、環境面での利益の分野において、今なお極めて大きな潜在力をもっている。日本と米国は国内的にも国際的にも安全で信頼性の高い原子力を推進することに、政治的かつ商業的利益を共有している」

 新方針への反対は日本の経産省や外務省の官僚集団の中にも強くあり、足を引っ張っている感がある。英国から返還される廃棄物の置き場所に困るのであれば、まずは「もうしばらく置いてもらえないか」という交渉が先だろう。

 青森県についても、反対することは分かっていることだ。本当に脱原発という大転換をするならば、青森県と粘り強く交渉することが必要だ。「反対されたからダメだった」とあきらめるのが早すぎる。

 結局のところ、野田政権の脱原発政策は国内外の多くの反対に囲まれて立ち往生しているということだ。

今回の矛盾した政策を今後どちらに動くかは、これからの日本社会が決める。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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