2012年10月23日
政府が打ち出した「森林・林業再生プラン」の理念には賛同の声が相次いだものの、現実は正反対の方向に進んでいると林業家から実情報告があった。一方、人件費も山も高いスイスで、林業が補助金なしで成り立っている。この事実を日本人はほとんど知らない。スイスから何を学べばいいのか。その方向性がおぼろげながら見えてきたのは、大きな収穫だった。
森林・林業再生プランは、菅政権が2009年12月に発表した。このプランに従った改革方針が翌年に発表され、2011年4月には森林法が改正された。今まさに改革が進行中なのである。
2020年までに木材自給率を50%にするというのが、再生プランの掲げる目標だ。そのために、コンクリートの社会から木の社会へという理念を打ち出し、中央主導から市町村を主役にすると地方分権を宣言。森林造成中心の国土保全という発想から、循環型の地域産業づくりを目指し、成長戦略の一環として林業をとらえる発想へと転換し、森を個人の財産としてとらえずに地域ではぐくむ森にしていこうと訴える。
ところが、改革は簡単には進まない。現実に起こっているのは、「50%」という数字の一人歩きで、とにかく搬出量を増やす動きが目立つ、と広島の安田林業社長の安田孝氏は指摘した。パネリストになった同社社員の中島彩さんは「同じ面積で何立方メートルの木材が出るかで補助金が変わってくる。林業をやっている人たちと話すと、すぐ量の話になる。残す木を傷つけてでも量を出そうとする動きは残念」と話した。
もう一人のパネリスト、山脇正俊さんはスイスに住み、環境と豊かさの両立を目指す方策を研究して「近自然学」という体系にまとめてきた。山脇さんによると、スイスの林業の条件は日本よりもさらに厳しい。人件費は日本の2,3倍。山の急峻さも日本より上。材価は日本より安い。でも、チューリッヒ州では補助金ゼロで黒字が出るようになったという。鍵は、略奪林業から持続林業に変えること。皆伐を繰り返すと地力はだんだん落ちていく。これは、経済でいえば元金に手をつけるやり方で、利子だけを利用するのが持続林業だ。そういう森を「近自然の森」と呼ぶのだという。「具体的な森の姿は
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