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世界最大のバイオガス・プラント

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

デンマークは、国会で90%以上の賛成により「エネルギー2020」を決定し(2012年3月)、2020年までに1次エネルギー中の再生可能エネルギー比35%、電力中の風力発電比50%、バイオマスCHP(熱電併給),バイオガス・グリッド促進を決めた。

 デンマークのバイオガスは、家畜糞尿の処理など環境保全と有機系廃棄物の処理、再利用が第1の目的である。ガスによるエネルギー生産は、そこから派生して得られる第2の目的である。これに対しドイツは、バイオガスによるエネルギー生産を重視している。デンマークはバイオガスによるCHP(発電と暖房)と天然ガスの代替を展望している。さらにバイオエタノール生産(ガソリン代替)も視野に入れている。

 バイオガス利用も集中型と分散型の2つのタイプがあり、集中型は北部ユトランドのホルステブロ市に建設され、分散型は西部ユトランドのリンクケビンク・スキャーン市で計画建設されている。2つの異なるタイプのバイオガス利用施設が、隣接する地域で実施・検討・評価できるのも、デンマークならではの、下からの自主的取組を重視した結果である。

バイオガスプラント1バイオガス・プラント(デンマークのホルステブロ市)

 またバイオガス・プラントに関連した専門機械設備・部品の専門メーカーの、ランディアLandia社がリンクケビンク市のレムにあり、200人弱の小規模ながら、下水道・スラリー用のポンプ、曝気装置などを製造・輸出している。とくに麦わらなどの繊維質に対応してナイフ付の回転翼をもったプンプは、同社独自のものであり、日本にも輸出されている。このレムは、風車メーカーVestasの発祥地であり、Landiaともども同じ戦前の「村の鍛冶屋」から出発した事業である点も興味深い。

バイオガスプラント2バイオガス・プラントの有機系廃棄物投入口(ホルステブロ市)

 北部ユトランドのホルステブロ市・ストルエ市では、中央集中型バイオガス・プラント施設を計画し、今年6月から実際に運用を始めている。世界最大のバイオガス・プラントである。

建設の背景は、環境規制の(特に燐の畑への投入に関する規制)強化によって、環境脆弱地(フィヨルドと河川)周辺農家の許容飼養家畜頭数を25%削減されると予想された。その対応策として、地域内の養豚・酪農・ミンク農家が協議し自治体ホルステブロ行政区に相談(2002年秋)したことがこのプロジェクトの発端である。

 国のCO2排出削減目標、北海のガス田が将来枯渇する見込みであることなどから、自治体が所有するエネルギー供給会社(電・熱・上下水・街灯)はバイオエネルギー資源開発による安定したエネルギー供給を求めていた。これらを背景として、隣接する2自治体ホルステブロ市とストルエ市のエネルギー供給会社とバイオエネルギー供給組合(農業者組織)の共同事業が成立した。

今まで試されたことのないコンセプトと規模であるため、当初、政府は懐疑的であったが、専門委員会の評価を得たこと、国の環境・気候政策にマッチすることなどから、政府とEUもこのプロジェクトを後押ししている。計画から実施まで約10年かかっている。

 農業者と供給会社(自治体所有)が協力することで以下の効果を生み出している。環境脆弱地域での農業を維持する(スラリーの窒素・燐含有量を低減)、安定したエネルギー供給を確保する、雇用を確保する、CO2排出量を削減する、などである。

 投入原料は、家畜ふん尿、麦藁、食品産業廃棄物、下水汚泥、産業廃棄物、家庭系廃棄物であり、処理量は65万トン/年のバイオマス(スラリーと有機廃棄物)、バイオガス生産は1860万 m3 /年、建設費は3.98億DKK(約54億円)、熱生産は5,388戸の住宅の年間熱消費に相当し、電力生産は14,381戸の年間電力消費に相当し、CO2排出削減は5万トン/年である。300人の雇用をつくり、約140億円の社会経済的効果を生み出すとされる。

 世界最大のバイオガス・プラントは、近代的で調和のとれた建物に全ての施設が入り、無臭でITにより手労働を減らし、最適化を図る。バイオガスと第2世代エタノールを生産し、CHP 施設を介し電力と熱(暖房、給湯)を地域に供給する。参加農民は、輸送コストの一部を負担し(液肥代)、大型化で効率的・衛生的処理を行う。スラリーはパイプ輸送で、一部トラック輸送を行う。

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