2012年10月31日
ことの起こりは、群発地震が起きているときに、ラクイラ近郊にあるイタリア国立核物理学研究所のGran Sasso国立研究所 (神岡の観測施設のカウンターパートである素粒子物理の実験施設)のGiampaolo Giuliani氏が、ラクイラ周辺の大気中のラドン濃度の上昇からより大きな地震がくることを警告していたことがある。Giuliani氏は、ラクイラから南東に50km離れたスルモナ(Sulmona)の市長に伝え、これを真剣に受けとった市長が拡声器付きの車で市民に警告をし、パニックが起こるなどの騒ぎに発展していた。この地域の住民は当然不安になる。当局は、Giuliani氏にインターネットから地震予測を削除するように命令した。同時に高リスク委員会を招集し、「安全宣言」を出して市民を安心させようとしたということらしい(英紙The Guardian電子版2010年4月5日付の記事)。
結果として、市民の目にはGiuliani氏らの予知が的中し、委員会の科学者らの見解が間違っていたととられた。その「安全宣言」で住民は間違った安心感を得て、避難を予定していた人もとどまり、犠牲になるなどしたために被害が拡大したと判決は判断した。
英科学誌Nature電子版2010年6月22日付の記事などによると、この委員会の見解は「大きな地震の可能性は少ないものの排除はできない。群発地震が大きな地震につながることもあるが、そうならないこともある。この地域は、そもそもリスクの高い地域であり、大きな地震の可能性は排除できない」という至極まともなものであり、さらに地域の建物などの検査を急ぐべきであるという助言もしているということである。
これに対して、当局は「科学者は危険性がないと結論した。群発地震でエネルギーが放出されているのは良い兆候である」と、委員会の結論とはかけ離れた発表を行っている。裁判は、地震予知ができなかったことではなく、この間違った安全意識を誘導する発表に対してのものである。
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