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温暖化、国際ルールづくりに積極関与を

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

朝日新聞恒例の、地球環境フォーラムが今年も開かれた。盛会だった。私は、今年は、京都議定書の次の国際約束に向けた国際交渉の在り方をテーマにした分科会(パネルディスカッション)に参加した。そこで、私は、次のように主張した。すなわち、地球温暖化対策の充実強化へのわが国の冷淡な態度を改め、日本も国際ルールづくりに積極的に関与すべきこと、そして、そのルールの中身としては、日本が省エネや創エネに元気が出せるようになるものをどしどしと提案すべきことなどである。

 この主張の背景には、世界人口の伸びという確実なトレンドに照らせば、省エネや創エネには大きな世界市場が開けているのであって、ポスト京都のルールが何を奨励するかは、見過ごすことのできない経済インパクトを持たざるを得ない、という事実がある。

また、私がこう主張したのは、国際ルールの作り方次第が、一国の政策動向や経済の盛衰に大きな影響を与えることをわが国は京都議定書でもって体験したからでもある。それは、反省でもある。

ルールの内容は大事

 図1は、私見に基づく個人的な試算で、わが国の京都議定書第一約束期間中の温室効果ガス排出量の推計(吸収量控除後のもの)を示している。ここに見るとおり、わが国は、東日本大震災に伴って生じた広範な放射能汚染の結果、原子力発電所はほぼ全数止まったままであるが、それにも拘わらず、京都目標は達成できる見込みである。

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 それは、このコラムの第一回に示したように、京都目標は、1990年頃にあったわが国の先進的な省エネなどのパフォーマンスに公平な配慮を払い、対策が遅れていたヨーロッパにこそ相対的に重く、わが国には比較的に緩い対策努力を求めた「差異化された」ものであったためである。

 実際、政府が定めた「京都議定書達成計画」の中での、CO2についての目標だけを見ると、6%の削減どころか、それは90年比ではなんと0.5%の伸びを認めるものであった。そして、このコラムの第二回に掲げたGDP当たりでのCO2排出量で見たように、20%や10%のオーダーの削減といった厳しい目標を掲げた独、英などの欧州の努力は進み、他方、緩い目標を獲得したわが国は努力を惜しみ(つまり、目標がなくとも努力してよかったのだがそうせずに)、結果として、マクロの省エネパフォーマンスでの我が国の優位は、現時点で、解消されてしまった。

 わが国は欧州競争相手との平等を望んだ。そして、そのとおりとなったのである。

この体験から見ると、次の国際約束で、またもやわが国が欧州より緩い目標を望み、それを実現させれば、今度は、わが国の省エネ性能は欧州に対して、それこそ劣後することになってしまうと言っても言い過ぎではあるまい。

 したがって、京都の後の目標をどのようなものとするのか、は、わが国の今後の発展経路の選択の問題となる。エネルギー集約型の産業によって国民を養うのか、養えるのか、省エネ型の産業で国民を養うのか、といった選択である。

このような選択に迫られた時に、日本は今はピンチなので国際社会に待ってくれ、と言う訳にはいかない。また、日本抜きで進めて貰うのも一案だが、そうした場合に定められるルールが、日本の産業が力を発揮することをサポートするものになるかは疑わしい。

 そこで、私は、震災後の苦しさはあったにせよ、日本は、積極的に国際交渉に参画すべきと述べたのである。

どんどん進んでいる世界の議論

 こうした意見に対し、イギリスの元の温暖化交渉のトップであったアシュトンさん(現・第三世代環境主義・代表)は、次のような感想を漏らした。すなわち、日本は、行くべきか、行かざるべきか、ハムレットのように悩んでいる。このままでは、日本はみすみすビジネスチャンスを失うし、京都議定書を作るなどを通じて得ていた国際社会の中での、名誉ある地位を失ってしまうだろう。省エネや再生エネルギーを巡る世界の市場は本当に大きいし、欧州企業は、そこにビジネスチャンスを見出しているのに、残念だ。日米に期待できないとなると、中国の力に期待したい、ということであった。

これに対し、中国の共産党中央党学校国際戦略研究所の馬(マ)教授は、米国が対策をしないことについて文句をおっしゃるかと思いきや、中国の進めている対策にむしろ自信を示した。日本など先進国にはまだまだ教えて貰いたい、と述べつつも、GDP当たりのCO2排出量を大きく引き下げてきた実績や、現実に、世界で一番多額の再生エネルギー投資を行っている国になっていることを強調した。さらに、そのような原単位目標を厳しくし続け、そう遠からず排出量ベースでもピークアウトするだろうとの見込みを述べた。

この分科会に参加した方々は、皆、おそらく中国にみなぎる自信を感じ取ったと思う。

馬教授は、さらに、ディテールに及んで、中国が世界の工場として、国際サプライチェーンの重要な位置を占めていることから、先進国が発注し、海外輸出するような製品を作る過程で生じるCO2排出量は、中国に帰属させられているということを述べ、こうしたembodied emissionsをどう扱うべきか、などといった具体的な問題提起も行った。

 このように、世界の議論は、言わば日本抜きで進んでいるのである。

パネルの最後に、司会の竹内敬二・朝日編集委員から、2015年には、次期の国際的地球温暖化対策の枠組み交渉に結論が出ているだろうか、との問があったが、私は、何らかの結論は出されていようし、残念ながら、このままでは日本はそれに貢献できていないのではないか、と答えざるを得なかった。

新しいルールの種

 例えば、折角、馬教授が提起されたサプライチェーンのCO2排出量管理の国際的な仕組みなどは、日本が、それに応えて具体的な提案をしてしかるべきではないだろうか。世界では、SCOPE3といった言い方でバウンダリーが定められその中での排出量の定量化の動きが進んでいて、日本の産業界も貢献している。さらに、日本の産業界は、中国にある製品製造委託先などにおける公害や有害化学物質管理を丁寧に行っており、そのノウハウは、CO2の管理や削減に活かし得るであろう。

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 図2は、わが国の重要な製造業である、一般産業機械、自動車、そして鉄鋼の、CO2排出量当たりの付加価値額の推移である。これを見ると、産業分野によって付加価値が大きく違うことが見て取れる。中国などにサプライチェーンを持つ産業部門と、根っこから日本で製造する部門とでは、これほどまでに炭素生産性に違いがあるのである。

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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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