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京が示したスパコンの実力

伊藤智義 千葉大学大学院工学研究院教授

2012年11月期のスパコンランキング「TOP500」が発表になった。6月期1位のSequoia(IBM)、2位の京(富士通)がそれぞれ2位と3位に後退し、1位に立ったのは米国オークリッジ研究所に納入されたTitan(Cray)だった。Titanには、最新のGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)であるNVIDIA社製K20が18,688個搭載されており、課題にされた計算で17ペタフロップス(1秒間に1京7千億回の演算を行う性能)を記録した。京コンピューターの2倍近い数値である。もともとグラフィックス処理専用のプロセッサであるGPUは、演算能力の高さから一般の数値計算にも使われるように発展し、近年ではスパコンにも多く取り入れられている。日本では、東工大のTSUBAMEなどが採用している。Titanに最新のGPUが大量に搭載されるニュースは昨年の今ごろ流れ、今回の1位は予想通りの結果として受け止めている。

 面白かったのは、実際の数値計算が評価されるゴードン・ベル賞である。TOP500は評価用の決まり切った計算の速さを競うが、こちらは現実に役に立つ計算の能力を評価する。今回は、6月期1位のSequoiaと2位の京が激しく競った。テーマは奇しくも同じで、宇宙初期の大規模重力計算だった。提出された論文では、Sequoiaの演算性能が14ペタフロップスで、京は5.67ペタフロップスとなっていた。ただし、プログラムの性能は京の方が2.4倍高く、同じ計算をさせると京のシステムの方が早く計算を終了すると見込まれた。そして、栄冠は京に輝いた。審査員はレポート上の数値では下であったにもかかわらず、京に軍配を上げたのである。

ゴードン・ベル賞の授賞式。右から2番目が石山研究員=筑波大学計算科学研究センター提供

 プログラム開発の中心となった筑波大学の石山智明研究員は、同大学計算科学研究センターのホームページを見ると、2005年に東大を卒業し、10年に博士号をとったばかりの若手である。石山さんをはじめ、関係の方々にお祝いを申し上げた。

 私は数値計算の高速化を専門の一つにしているが、現在のスパコンの有用性には疑問を持っており、

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