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東大の休学新制度に対する根本的疑問

伊藤智義 千葉大学大学院工学研究院教授

東京大学の特別休学制度(FLY Program)のニュースに接して、脱力感のような失望をおぼえた。このプログラムは、新入生を対象に1年間休学させてボランティアや海外留学を行わせて「タフでグローバルな人材を育成する」という制度で、「文部科学省によると、在学期間が5年に延びるため、国内大学で同様の制度はない」というように報道された。また、最大で50万円の支援が与えられることも話題になっている。

 私も現役の教員であるので、自分の勤めている大学を棚に上げて他大学のプロジェクトに口出しすることは控えたいが、報道のされ方が世間の認識をミスリードしているようにも感じられて、大学教員という立場と東大の卒業生という立場から、一筆、申し上げたい。

 報道記事を読むと何か画期的な制度が誕生したような印象を受けるが、これらの表現は正確ではない。現在、学生は様々な理由で休学できるようになっているし、国立大学では休学中の授業料は徴収されない。したがって、どこの国立大学の学生でも、自分自身でやりたいことがあれば、現行制度の中でも同様のことを実行することが可能である。

 違いをあげれば、50万円の支援金である。休学中に大学が学生に現金を支給するというのは確かに聞いたことがない。さらに注意しなければいけない点は、大学が学生に休学を奨励していることである。そこまでして休学させて(してもらって)、本当に「タフ」な学生が育つのだろうか。

 現在でも休学をして世界を旅してくる学生はいる。彼らは大学に見返りなど期待していない。そうしたいからチャレンジするのである。私事で恐縮ながら、私は病気で1年間高校を休学した上に浪人して東大に入学した。さらには、希望の進路に進みたいという思いから、2度、留年した。その間、運にも恵まれて、集英社ヤングジャンプ誌で連載マンガの原作を書く機会を得てもいる。ただし、このような経験は、(プログラムで要求されているような)計画を立てて実現できるものではない。

 20歳前後は未熟であり、非力である。既成の枠組みを越えたチャレンジは、常に不安と不満を抱えながら、試行錯誤を続けていかなければならないという側面を持っている。計画書を提出して、良し悪しを他人(教員or大人)に判断してもらって行うようなものでは決してない。今回のプログラムは内向きな学生にチャレンジ精神を持ってもらうための良い制度という評価も散見されるが、制度化された時点で、その行動は「チャレンジ」ではなくなるはずだ。

 さらには、卒業生の立場からみると、東大ほどこの制度にマッチしない大学はないのではないか、という違和感を持つ。なぜなら、

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筆者

伊藤智義

伊藤智義(いとう・ともよし) 千葉大学大学院工学研究院教授

1962年生。東京大学教養学部基礎科学科第一卒、同大学院博士課程中退。大学院生時代に天文学専用スーパーコンピューター「GRAPE」の開発にかかわり、完成の原動力となる。現在は「究極の3次元テレビ」をめざし研究中。著書に、集英社ヤングジャンプ「栄光なき天才たち」(原作)、秋田書店少年チャンピオン「永遠の一手」(原作)、集英社新書「スーパーコンピューターを20万円で創る」など

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