須藤靖
2012年11月27日
東京大学の総長が秋入学への移行を提案してから、およそ1年が経った。この秋入学という提案はかなり刺激的なものとして世間で大きな話題となった感がある。のみならずマスコミ報道などでは、ややもすれば暗黙のうちに、
・秋入学賛成=改革派=経済界=善
・秋入学反対=守旧派=末端の大学教員=悪
といったレッテルが貼られてしまっているような気さえする(私の偏見かもしれない)。
私は秋入学には極めて否定的な意見を持っている。そしてその理由はすでに数回に分けてこのWEBRONZAでも説明させて頂いた。東京大学では「入学時期の在り方に関する懇談会」の提案(半年間のギャップターム+9月入学)をもとにさらなる検討・修正が行われ、現在では学事暦変更(4月入学+2カ月間のフレッシュプログラム+選択制の3カ月間のサマープログラム+9月から正式の講義開始)が提案され、それに関する具体的な検討に入っている。この案は学内教授会メンバー限定の情報として10月初めに提示されたのだが、10月下旬にその内容が新聞報道され(内容が漏れる事は当然想定済みであったことだろう)現在に至っている。この学事暦案に関しても私は懐疑的な立場であるが、これは東京大学固有の問題でしかない。したがって、この場で論じることはさし控えておく。
さて今回の講演・討論会は、秋入学が科学人材育成という観点からどのような影響をもたらすかについて、特定の大学の問題に矮小化することなく議論すべきだという立場から企画した。東大の秋入学推進派の教員、大学教育の専門家、高校教員、行政の立場から4人の方々をお招きした。経団連にもどなたか出席をお願いしたところ、「大変興味深いテーマではあるが、この切り口での議論は当方内部でも不足しており、公式見解は持ちあわせておらず出席は遠慮したい」旨の返事を頂いたことは残念であった。
いずれにせよ、今回の議論で明確になったのは、秋入学が提案された背後にある日本の大学が抱えている数多くの問題点の存在である。私はそれらを解決する具体的な手段としての秋入学を評価するものではない。だからといって秋入学が見送られればそれで良し、と主張するつもりもまた毛頭ない。その意味では、秋入学への賛成・反対を問わず、日本の大学の現状に対する危機意識が共有されているという事実を実際に確認できたことの意義は大きい。つまり、めざす目的はほぼ同じであるものの、その有効な解決策に対する意見の相違が論点となっているのである。
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