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はじめに――現在の“政党乱立”をどう見るか
 今回の総選挙では民主党、自民党、複数の「第3極」を含め多くの政党が“乱立”して半ば収拾がつかない状況となり、どのような基準で政党を選べばよいかという座標軸自体がわからなくなっているように見える。

 しかし一方、私見では、枝葉を取り払って大きな状況を把握すると、そこには先進諸国にある程度共通する、「成熟社会における政党構造」とも呼ぶべき構造がおぼろげながら浮かび上がって来ているように思える。

 それは一言で言えば「3大政党プラス“緑”」と呼べる構造だ。私は以下に述べるように、成熟社会の政党構造は大きくはこうした姿に収斂し、日本もまたその方向に向かっていくべきものであり、今回の選挙はいわばそうした姿に向けた入り口ないし出発点にあたるのではないかと考えている。

 もちろん、特に日本の政治や政党のありようは、理念や政策よりも“好き嫌い”や情緒的なレベルで動く要素が大きく、政党のありようや付置関係が、政治理念やめざすべき社会像と連動しないことが多いのは確かなことである。しかしその点を踏まえた上でなお、理念的に純化した形で政党や政治をとらえ、今後の展望を考えていくことは現在の日本社会にとってきわめて重要なことと思える。以下そうした内容について考えてみよう。

「3大政党プラス“緑”」とは
 さて、まず「3大政党プラス“緑”」の意味だが、それは端的に次のような政党からなる構造をいう。

1)保守主義政党……伝統的な家族・共同体や価値を重視
2)自由主義政党……独立した個人あるいは市場経済を重視
3)社会民主主義政党……独立した個人プラス公共性(政府による再分配等)を重視
4)“緑”ないし環境政党……環境保全(やローカルなコミュニティ)を重視

 これらについて簡潔に説明すると、1)の保守主義政党とは、伝統的な家族や共同体ないし価値を重視するもので、日本ではひとまず自民党が挙げられる。ただし、今「ひとまず」という距離を置いた表現を使った理由でもあるが、そもそも「保守」とは何かについては次のような意味で大きな注意が必要だ。つまり、ヨーロッパなどでの保守主義は、英語のconservatismという言葉が示すように、文字通り「保守=保全conservation」に基本的な価値を置く理念である。したがってそれは、自然保護や歴史的な街並みの保全など、他でもなく「環境保護」と親和的な考えなのである。実際、ヨーロッパにおける環境政策は保守主義政党が主導して取り組んだケースが多い。こうした観点からすると、経済成長を第一義にかかげ道路整備やダム建設(自然や歴史的街並みの破壊!)に邁進した戦後日本の自民党は、“開発主義”ではあっても保守主義とはおよそ異なるとも言える。さらには、“親米主義”が追求されたというのも(「保守」の本来の意味からして)奇妙な現象であり、戦後日本における保守主義はこうした幾重もの「ねじれ」を含んでいることに注意する必要があるだろう。

 次に2)の自由主義だが、これは「独立した個人」そして文字通り「(個人の)自由」に基本的な価値を置く考えで、経済的には市場経済(ないしそこでの自由放任)を重視し、したがって「小さな政府」を志向する理念である。近年の日本での一番わかりやすい例は“小泉改革”であり、小泉氏が“自民党をぶっ壊す”と言ったのはその限りでは筋が通っていた(保守主義政党の内部から生まれた自由主義)。そして今回の選挙では、「みんなの党」や(太陽の党と合流する前の)「日本維新の会」がこれに近いと言えるだろう。

 3)の社会民主主義は、「個人」(ひいては市場経済)を基本にすえるという点では自由主義と共通するものの、それだけでは様々な格差や環境破壊などが生じるので、政府ないし公的部門が積極的に関与し、社会保障等による再分配や環境保護規制等を行うことを重視する立場だ。 1)の保守主義が「共助」重視、2)の自由主義が「自助」重視とすれば、社会民主主義は「公助」重視と概括することもできる。

 同時にこの社会民主主義は、日本ではなかなか定着しない、“人気のない”政治理念である。「日本では」と述べたのは、ヨーロッパにおいてはこの社会民主主義が大きな勢力をもち、2大政党(ないし3大政党)の一翼をなしていることとの対比においてである(ドイツや北欧の社会民主党、イギリスの労働党など)。

 もう一言付け加えれば、日本と並んで社会民主主義が人気がないのがアメリカであり、この点において日本とアメリカは似た面をもっている。日本とアメリカの「民主党」は、市場経済への自由放任ではなく公的部門の一定以上の役割を重視する(社会保障などの再分配や各種規制など)とい ・・・ログインして読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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