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ついに号砲、世界をカバーする温暖化対策の立案作業

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

第18回の気候変動枠組条約の締約国会議(COP18)がドーハで開催されていたが、12月8日、今後の作業計画などに関する締約国会議決定を行い閉会した。一日延長とはいえ、紛糾がいわば恒例化している中では、比較的に順調に、期待されていた事項をまとめたと言えよう。いよいよ、いわば第三段階の温暖化対策の検討に関してスタートの号砲が鳴らされたわけである。今後の日本の取組みの加速化を促したい。

2020年以降の世界の対策を検討するスケジュールが決まった

 決定事項の主な内容は、以下のとおりである。まず、最も大きな懸案であった2020年以降の世界の温暖化対策についての検討の在り方に関しては、作業計画などを決定した。

 2013年には、(1)2020年以降の将来枠組みと(2)2020年以前における削減の強化を中心テーマとして各国の意見の表明が求められ、2014年末には、将来の交渉テキストの項目の検討を行い、2015年5月までに、交渉テキストを準備する、というのが粗筋である。

 世界全体をカバーすることになる2020年以降の国際ルールが実施される以前にも、先進国は京都議定書の下で対策を続けることは、既に、昨年のCOP17におけるダーバン合意で決定済みであったが、その具体的な内容として、2013年からの8年間を京都議定書の第二約束期間とし、その期間中の、この約束に参加する国々のそれぞれの削減約束を盛り込んだ京都議定書の附属書Bなどが採択された。

 また、途上国や気候変動に脆弱な国々に対する支援の措置として、先進国からの資金供与がかねがね懸案となっていた。今回のCOP18でも、この点に関する進展がないと、作業計画の決定が困難視されていたところ、若干の成果が得られた。それは、先進国全体で年間1000億ドルの官民の資金を2020年まで動員していく、との既にコミット済みの目標(いわゆる「長期資金」)の早期の具体化に関して、来年中に先進国の意見を表明することなどを含め、2013年まで検討作業を続けることが決まったほか、2013年から15年までの間も、これまでの先進国の資金供与実績(2010年から12年で合計336億ドル。「短期資金」と呼ばれる)の3年平均の規模を引き続き達成するよう先進国は、奨励されることとなった。

 さらに、気候変動に対して脆弱な国々における被害を軽減するための世界的なメカニズムを、来年のCOP19(ワルシャワで開催)において設立するとの方針も決められた。

我が国との関係では平和な結論であった

 我が国に関して言うと、京都議定書の第二約束期間中の削減目標は我が国に関しては設けられないままで前述のとおり京都議定書附属書Bが採択されたので、我が国が、進んで、削減の深堀り(温暖化対策の国際交渉上は、「野心の強化」と呼ばれる)などを表明して、この目標数字を自ら決めて議定書締約国会合で認められるようなことがない限り、我が国が、当面、国際法上の数量的な温室効果ガス排出量削減義務を課されることがないことがはっきりした。

 また、京都議定書の第二約束期間中も、先進国は、二年に一回は排出量などの報告を行わなければならいことも決められたが、この第二約束期間中にあって、我が国のような義務的な排出枠を持たない先進国もCDM(クリーン・デベロップメント・メカニズム。途上国での削減対策で生じた削減量の国際認証を受けたもの=削減クレジット=を、当該プロジェクトへの出資などの金銭対価の下、先進国の削減量に算入する仕組み)を、第一約束期間中とほぼ同様に、利用できることとなった(ただし、第二約束期間における排出枠を持たない我が国などは、取得したCDMクレジットを第三国に転売することはできないことや、先進国間の排出枠取引などができない、といった形で、京都メカニズムの使用に若干の制限はある)。

 ついでながら、第二約束期間における森林等の吸収量についても、我が国を含め、各国は第一約束期間の場合と同様の方法で算定し、報告することになった。

 また、2020年以降の対策に関連した動きもあった。こうしたものとして国際的にも活用を期待したいとして、我が国が先行的に試行を始めようとしている二国間オフセット・クレジットの仕組み(個々のプロジェクトのレベルを超えた削減を、途上国で、当該途上国と先進国との協力で実施しようとするもの)、さらには、市場メカニズムを活用したこの他の様々な新たな仕組み案についても、それらの実施のための枠組みを設けることに向けて検討作業を開始することが決められた。

 国際的に提供される支援の資金(前述の短期資金)については、本年末までの3年間で我が国が、約174億ドル(10月末時点)を負担したことも評価された。

内外で、猶予期間切れを迎えた日本

 COP18においては、CDMの取り扱いなど、日本固有の関心事項はあったろうが、しかし、日本の外交団は、おそらく主要な国際交渉の外に置かれたのではないかと想像される。日本にとっては、京都議定書の第二約束期間に排出枠を登録しないことは既に昨年に決まってしまっていて、そして、先進国の義務強化だけを検討してきたアドホック・ワーキング・グループも無事に店じまいをすることになって、2020年までは、いわば逃げ切った、という安堵感があったのではないかとも、論者は現場に居たわけではないが、想像する。

 こうした中、そして、国内にあっては解散総選挙の真っ最中にもかかわらず、長浜環境大臣が、ハイレベル・セグメントにきちんと出席し、日本の立場を説明したことは、幸いであった。日本としての存在感がないと、国際ルールの検討プレーヤーから自然にオミットされかねないからである。

 さて、こうして決まった作業計画であるが、これはあくまでスケジュールであって、出口を保証するものではない。

 地球の気候異変は残念ながら確実に進んでおり、世界の災害被害も増えていると言う。現在検討が進んでいるIPCCの第5次報告書も気候変動問題をこれまで以上に厳しく差し迫った問題として取り上げるにちがいない、と噂をされている。2020年以降はもとより、それまでも含め、温暖化対策の強化はそれこそ喫緊の国際課題となっているのである。このような中で、世界第5位の大排出国である我が国が、無責任であってよいはずはない(ちなみに、日本は、第6位のドイツの1.5倍の量を排出している。2008年)。

 昨年の東日本大震災により生じた放射能汚染と原子力発電所の停止、さらには、解散総選挙という政局によって、国内の地球温暖化対策の今後の方向の検討はいわばモラトリアム状態にあるが、国際的な検討作業が始まる以上、将来の国内対策に結論を出すことを後延ばしすることはもはや許されない。

 もちろん、長年原子力に依存してきた以上、我が国が、CO2を大量排出する石炭火力に頼ることなく、新たなエネルギー源を開拓していくことには時間が掛かろう。したがって、短中期の国内削減目標は、そんなに野心的にはできないだろう(論者としては、かねて主張してきたように、環境対策はビジネスを生むので、野心的であるべきとは思っているが、残念ながら日本は保守的なので、そんなに立派なことにはならないであろうと言わざるを得ない)。それゆえにこそ、国内政策としては、長期的な削減目標をきちんと野心的なもの、地球環境を守るのに十分なものとして定めることは必須となるであろう。ちなみに、自民党・公明党政権時代も民主党・国民新党政権時代も、我が国は、G8サミットのベースでは、2050年の80%削減にコミットしているので、こうした目標を、国内での法的な目標に据えることは最小限必要と思われる。そのような長期的なゴールを決めた上で、バックキャスティングによって、短中期の目標や対策を定めていくことが考えられよう。ぶれない長期方針があれば、短中期の対策も進められやすくなるのは当然である。

 しかし、それでもやはり、国内的な対策の可能性と、地球を守るために国際的に期待される対策の強度との間には、残念ながら、ギャップが生じよう。このため、日本が、海外における削減に責任を果たすことが、これまで以上に重要になることも避けられない。

 つまりは、折角日本の資金を使って海外で削減対策をすることになるわけなので、それが、国内で対策をした時のように、経済拡大効果を持つように工夫のある仕掛けにすることもやはり必須になろう。

 このように、国際対策、国内対策の検討を同時並行で総選挙後には直ちに立ち上げて進めていかなければならない。作業はもう待ったなし、になったのである。来年には、公式に我が国の意見が求められる、作業に許される期間が短いことも肝に銘じておく必要がある。

 なお、検討課題は、単に2020年以降の排出削減対策だけではない。既に、今次COPの成果として紹介した2020年以前での対策の強度の強化、あるいは、国際的な資金メカニズムなどについても、提案をまとめる必要がある。前者に関しての一案であるが、新興国の将来の義務がどうなるかは不明であっても、先進国だけが義務を課される仕組みが2020年以降には存続せずに変更されることが日本の主張のとおり、決まったわけであるから、日本が、京都議定書の第二約束期間に、京都議定書と同様の数値を登録することも、国際社会の雰囲気を暖かいものに変え、野心度向上に寄与していく良い影響を与えるカードになる可能性がある。他にも、十分に手が届き、しかも国際的に好感される短中期の対策のアイディアは多々あろう。

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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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