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続・政治の液状化〜背後に潜むミクロな情動政治

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

昨年末の衆院選の結果を受けて前稿では、「継続性の否定」がキーワードだと記した。

 原発経済については「進退窮まっている」と書いたが、舌足らずだったかも知れない。福島第一を含む老朽炉の廃炉、再稼働すればさらに増える廃棄物の貯蔵問題、そして繰り返し頓挫している核燃料リサイクル。これらは当面の政治・技術問題であると同時に、結果的に再稼働のコストを押し上げる長期的な経済問題でもある。活断層ドミノが電力経済にとって「前門の虎」なら、再稼働のこうした追加コストも「後門の狼」として立ちはだかっている。

 原発政策は民主党政権下で180度の大転換をした。それが新自民党政権下で、元のさやに納まろうとしているように見える(WEBRONZA竹内敬二氏論考「原発政策。民主で180度転換、自民で180度転換?」)。しかし今ふれた経済事情だけを見ても、元の経済構造には戻れない。

 以前に本欄でも「脱原発は国の大きな方針転換。過渡期の混乱はある程度やむを得ず、批判の相手を間違ってはならない」と述べたことがある。現在の混迷は、方向選択の可否と同時に、継続する意志 の欠如が招いた結果と考える。

 これは何も電力・原発の問題に限らない。国際関係・外交面でも同様だ。国際社会でもっとも嫌われるのは、政権に継続性のない、「アテにならない」国家だ。日本はかつて、この意味ではもっとも信頼される国のひとつだった。それが過去10年で失点を重ねた。尖閣諸島沖における海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件(2010年9月)や、同じく尖閣の領土問題、中国での反日デモ(2012年9月)などでも、政権・政策の継続性の無さから後手に回った。欧米メディアの論調を見ても、エネルギーや国土、安全保障の問題を含め、国際的な信頼を損ねていることは明らかだ。

 さて、この度の選挙で自民党政権に戻ってそれで安定するかといえば、そう単純な話でもない。現在の自民党は、もはやかつての保守的だが経験に富む安定した党ではない。むしろ求心力の弱い民主党のような党になっている。

第二次安倍内閣=2012年12月26日

 特に新内閣は未経験者が多く、不安が多い。それに自民党が勝ち過ぎ、衆院全体の右傾化が極端過ぎて、またもや舵取りが不安定になるのではないか、とりわけアジア情勢で摩擦が増すのではないかとの懸念がある。実際、東アジア各国の政府、メディアの多くが警戒感を表明している。

 原発新設を巡っては首相が年頭会見で早くも軌道修正するなど、迷走の気配だ。科学技術や教育政策についても、数十年にわたる長期的な展望を前提に、短期の政策が確定されているとは、とうてい言えない。科学者たち、教育者たちが苦しめられている。

 前稿で「すぐに失望し、見切りをつけ、次へという態度は、ファッションの消費者としては許されても、有権者としては望ましくない」と書いた。だが政治の継続性の無さは、選挙民のコミットメント(関与)の問題であると同時に、政権担当者の責任の問題でもある。

 最近10年の政権の寿命が一般に短かったこともあってか、政治家が党利党略に捕らわれ、「国策の大きな方向と継続性の中で、いかに新しい政策を実現するか」という意識を持たなかった。それがまた混乱に拍車をかけた。

 かつての日本に比べて現代社会では、地道な努力や蓄積、伝統の価値、粘り強さなどの美徳が、ますます軽視されつつある。すべてがお手軽に、インスタントに、コンビニエント(簡便)に与えられる時代だ。それ自体は必ずしもマイナス面ばかりではない。しかし問題はそれと並行して、政治の大衆化、というよりマーケティング化が進行していることだ。最近の選挙結果の振れ幅の大きさ、一貫性の無さは、その現われと言えるのではないか。

 より大きな背景としては、

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