メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

オーディオメディア、デジタル対物理〈下〉

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 話をネットワークオーディオに戻す。今後、高品位コンテンツの配信が増えると、CDなどを買うことが激減することが予想される。前回は、物理的な店舗の強みを議論したが、例えば面白い店舗でCDを並べても、高音質配信とCDでは、CDに勝ち目がない。同じお金を払って、音質的に劣るCDを買う理由はないのである。

 しかしである。よく考えると唯一、打開策がある。SACDである。SACDは、DSD(Direct Stream Digital)方式で、高音質配信と同等か、配信のフォーマットによってはそれ以上の音質を提供可能なパッケージメディアである。ところが、現在、SACDは、SACDが企画された当時の著作権保護の観点からSACDプレーヤーからのデジタル出力が禁止されており、ハードディスクやソリッドステートディスクなどに蓄積するリッピングもできないのである(ごく初期のPlayStation3では、これが可能なのがマニアには有名であるが、現在入手はできない。中古市場にも出回ることはごくまれである)。しかし、SACDのリッピングを解禁すれば、高音質配信と同等の内容を店頭で販売し、ユーザは、それを自宅でストレージに蓄積し、ネットワークオーディオのライブラリーに加えることができる。高音質と利便性を同時に手に入れることができるのである。

 実際、私自身、ネットワークオーディオの導入後、リッピングができないSACDの購入に迷いが生じている。しかし、SACDがリッピング可能となれば、SACDの購入を再開するであろうし、店頭で選んでその場で購入するという楽しみが増える。SACDと同等の高音質デジタル配信がDRMフリー(著作権管理機構が埋め込まれていないので、自由にバックアップすることが可能で、機器の移行時にも問題が発生しない)で行われる現状において、SACDの著作権保護システムは、意味がなくなったと言える。むしろ、今後、それがSACDというパッケージメディア流通の阻害要因になるのではないかと思われる。また、私も含め、SACDを大量に保有して、さらに同じコンテンツの高音質コンテンツを二重に購入することに頭を悩ませている人も多いと考えられる。

・・・ログインして読む
(残り:約845文字/本文:約1760文字)