2013年01月22日
ドイツのエネルギー転換については、電力代金の値上がりと太陽光パネル製造会社の倒産などが報道され、その進展状況について、当事者がどのように評価しているかが注目されていた。
ドイツ経済技術省とドイツ環境省の連名で公表された「第1回モニタリング報告、未来のエネルギー」は、全体で12章構成である。序章、エネルギー大転換とエネルギー政策のトライアングル、エネルギー大転換の量的目標と指標、エネルギー供給の発展、エネルギー効率性、再生可能エネルギー、発電所、送電網の現状と新設、建物と交通、温室効果ガス排出、エネルギー価格とエネルギーコスト、エネルギー大転換の経済全体への影響、からなっている。
ここでは、そのなかで注目される、「再生可能エネルギー」と「エネルギー価格とコスト」を扱った章を中心に紹介したい。まず、再生可能エネルギーの拡大は、計画通り進んでおり、1次エネルギー比率で12%(2011年)、対電力比率は20%で、2012年にはこれが25%になる。化石燃料価格の値上がり傾向のなかで、メリット・オーダー効果(後述)により卸電力価格も低下した。再生可能エネルギー賦課金は、家庭用で3.53セント/kWh(2011年)、3.59セント/kWh(2012年)、5,277セント/kWh(2013年)で、約25セント/kWhの電力代金に対して14-20%を占める。太陽光パネルについては、賦課金改定で、買取上限が全体で52GWに定められた。
再生可能エネルギーのシェアは、1次エネルギー比率で2020年18%の目標達成の見通しである。再生可エネルギー利用分野は、電力41%、熱48%、燃料11%であり、風力、太陽光、バイオマスが増加した。電力分野の再生可能エネルギーは、2020年35%の目標に対して、2011年は20.3%であり、90年の3%からの大きな伸びであるものの、このままでは2020年35%目標の達成は不可能であるという。2011年の電力中の比率で風力は8%、バイオマスは6%、太陽光は3%、であり、風力の条件がよく、既設風力発電機の大型化がすすんだ。2012年に入り、太陽光パネルの建設がすすみ、電力中の再生可能エネルギー比25%達成の見通しである。
再生可能エネルギー賦課金については、太陽光パネルの急増により支払額は2010年の132億ユーロから2011年には167億ユーロに増加した。賦課金は太陽光が56%を占め、風力は14%にすぎない。エネルギー多消費産業603社と鉄道は、賦課金支払から免除されており、電力消費の27%が賦課金から除外されていることになり、これについては、さらに調査が必要である。自家発電も増加しているが、これも賦課金支払から除外されている。
再生可能エネルギーのメリット・オーダー効果とは、電力市場が自由化されているために、限界発電コストの安いところから電力を購入するので、在来電力の需要を減らし、価格が0.3-0.1セント/kWh低下しているというが、これについて、専門家委員会のコメントでは、モデルに基づく計算なので、確認できないとされている。
電力部門で2020年再生可能エネルギー35%目標達成には、再生可能エネルギーのコストが増加し、賦課金の調整が必要である。風力などを中心に直接市場から購入する市場プレミアム価格制度が導入されており、賦課金の中心は太陽光であるので、その調整を行い、買取価格の低減と買取上限52GWの設定も行った。賦課金の免除規定の直しも必要であるという。
続いて、エネルギー価格とコストについては、2011年に燃料原料価格が歴史的高水準になった。再生可能エネルギーの賦課金の影響は見られないが、ボーダー(低所得)消費者にとっての負担の問題と、産業競争力と供給確保の問題が生じているという。
電力価格は多くの要因の結果であり、家庭用電力価格の25.23セント/kWhは、賦課金とインフレ分を入れると高くはないという。それでも2000年には14セント/kWhだったので、1.8倍近くになったことになる。産業用電力価格は14.04セント/kWh、賦課金免税企業は12.50セント/kWhである。ただし、実際のエネルギー多消費産業用の税抜電力代金の推移を見ると、2009年の7セントが2011年の5セント/kWhに下がっている。
ドイツとヨーロッパのエネルギー価格を比較すると、ドイツはEU中位であり、電気代金はEU平均よりも高いが、再生可能エネルギーの賦課金がなければ高くはないという。
ドイツでは、産業の国際競争力を考慮して、エネルギー多消費産業と鉄道は賦課金を免除されてきた。その分は、主に他の産業と家庭部門で負担してきたのである。所得中のエネルギー支出比率は、低所得一人世帯で16%、低所得4人世帯で7%になるという。産業別でも違いがあり、鉱業、金属加工業、製紙などではエネルギーコストは製造コストの30%を占めるという。エネルギー集約産業の競争力を強め、再生可能エネルギー賦課金を柔軟に運用していくこと、市場の透明性を高めていくことが課題であるとされる。
以上の第1回モニタリング報告に対して、専門家委員会のコメントは、次のような内容である。
温室効果ガス削減と脱原発がドイツの主要目標であり、両者が対立矛盾するという立場をドイツは取らない。2つの主要目標から派生する目標と指標をシステム化して、経済と環境と安定供給の3つの条件を満たす必要がある。省エネと再生可能エネルギーの推進に当たり、とくに建物断熱と交通分野の取組を強める必要がある。洋上風力発電の計画実施が遅れ、太陽光発電の不安定性の問題も残っている。バイオマス利用の環境影響を含め、政策の環境への影響評価が必要で、とくに土地利用への影響を重視すべきである。これまで原発が多く立地してきた南ドイツの電力供給についての精査が必要になっており、電力網建設の遅れも重要な課題である。今後予想される電力価格上昇、マクロ経済効果の分析、
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