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 航空機や生命や金融のような複雑なシステムに対しては、そのすべてを知り尽くしていないことを認識して向き合わなくてはならないということを、前回書いた。そこで、重要になるのが、これらのシステムの運用におけるガバナンスやマネージメントである。

 今回、ボーイング787機で起こった一連のトラブル、とくに、リチウムイオンバッテリーモジュールの発火という事態を受け、米連邦航空局(FAA)は、即座にB787-8型機の運航停止を通知した。今後、徹底的な調査がなされ、それにもとづいたモジュールの改良または新規設計が進められ、それが安全性の面から承認されて初めて飛ばせることができる。今回の発火の原因によっては、相当な時間が必要になる可能性もある。

 FAAのホームページを見ると、毎週のように、ありとあらゆる機種のトラブルの報告や改善勧告などが発行されていることがわかる。つまり、不完全性を前提として、細かな問題点から始まり、ありとあらゆる問題点をつぶしていくということで安全を守っていくという姿勢が明確である。

 また、運航に携わるパイロットは、定期的にシミュレーターによるトレーニングが義務づけられ、そこでは、いろいろな非常事態を想定した訓練が入っている。今回のような、客室やコックピットで煙が感知された場合の対応は、典型的な訓練メニューなので、落ち着いて対応できたと考えられる。

 さらに、一連のトラブルの発生時にパイロットをサポートするシステム(エアバス社はECAM: Electronic Centralized Aircraft Monitorという名称、ボーイング社はEICAS: Engine Indication and Crew Alerting Systemという名称)が導入され、たとえばエアバスの場合、トラブルが発生するとパイロットは即座にECAMによって提示される対応手続き(これはECAM Actionと呼ばれている)を参照しながら事態の対応にあたる。

 これらの一連の対応策は、すべてシステムは完璧ではなく、想定外の事態は起こり得るという前提に立った重層的な対応であり、過去の多くの航空事故の経験を克服することで確立した方法論といえる。その意味で、今回の一連のトラブルは、重大インシデントになったものの、大きな事故へと至らなかったということをまずは評価したい。また、FAAなどの当局の通達以前に、2回目のリチウムイオンバッテリー発火事象に伴い、経営上大きな影響があるにもかかわらず即座に運航停止を判断したANAとJALを評価したいと思う。 ・・・ログインして読む
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筆者

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき) ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長兼所長。1984年国際基督教大学教養学部理学科卒業後、日本電気に入社。88年米カーネギー・メロン大学客員研究員。91年、京都大学で博士号(工学)を取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、犬型ロボットAIBOなどの開発にかかわった。2008年に現職。NPO法人システム・バイオロジー研究機構会長を兼務。Computers and Thought Award (1993)、ネイチャーメンター賞中堅キャリア賞(2009)などを受賞している。

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