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「アリバイ」と「見せ玉(ぎょく)」が日本文化のカギだった

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

巨額の税金が投じられている除染事業だが、現場では「手抜き除染」や「アリバイ除染」が横行しているらしい。他方では原発再稼働が「はじめにありき」で、そこへの道筋が政治的に着々とならされようとしている。これは日本の政治文化の問題なのでは、と思いはじめた。手抜き除染は海外でも伝えられ、「勤勉な日本人らしくない」と驚きをもって受け止められたようだが(朝日新聞デジタル、1月26日)、彼らには日本の精神風土の深層が見えていない。
拡大福島県田村市の国道沿いの除染現場。急斜面の頂上部分から順に熊手を使って枝葉を集めていた=1月7日、鬼原民幸撮影

 手抜き除染で報道されたのは、高圧洗浄で出た汚染水をそのまま側溝に流したり、集めた落ち葉や土砂を川に流したりといった告発だ。もともと除染は放射性物質を無くせる訳ではなく集めるだけだそうだが、このようにただかき回しただけというのはひどい。

 「手抜き」より問題なのが「過剰除染」だそうだ(WEBRONZA高橋真理子氏論考『「手抜き除染」vs「アリバイ除染」基本戦略の欠如が諸悪の根元』)。「いま、過剰な除染を求める圧力が全体を覆って」いて、実効性のない巨額の除染に拍車をかけているという。

 「手抜き」除染が横行する裏で「過剰」除染も問題化するのは、矛盾しているように見えるかも知れない。が実は同根、「アリバイ作り」の表裏だと考えると納得がいく。環境庁のガイドラインが実態とそぐわないこと、実現不可能な基準を設けていることが一因で、そのこと自体も問題だ。だがそれもアリバイ作りというならならわかる。つまり実効よりは、とにかくやったという手続きが重要なだけなのだと。

 それで思い出したことがある。SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が、肝心の時に全く役立てられなかったのは何故か。それをめぐっていろいろな議論があったが、「 SPEEDIははじめから見せ玉(ぎょく)として作られたから」という民間事故調の指摘に、妙に納得した。つまりこの予測システムはもともと、原発建設に反対する地域住民を納得させるための「見せ玉」だった。だからいざというときにどうやって役立てるかなど、誰も気に留めていなかったというのだ。

 「見せ玉」というのは、本来は証券取引の用語だという。実際に取引する意思がないのに売買注文を出して相場を有利に変動させ、売買が確定する前に注文を取り消す違法行為を指す。SPEEDIは似た意味で、原発に反対する世論の相場を動かす「見せ玉」だったという訳だ。

 「アリバイ」が、どちらかと言えば過去の清算に関わるのに対して、「見せ玉」にはより積極的に世論を動かそうというニュアンスがある。しかし両者は明らかに重なっている。先の過剰除染にしても、再稼働や復興に向けて新たな道筋をつける「見せ玉」の面も大きい。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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