メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS
私が学生だったころ、大学のほとんどの教室は数百人収容できる大教室だった。講義風景と言ったら、前方の黒板に向かって教授が1人黙々と板書し、学生はそれをひたすらノートに写すというものだった。教室の後方に座ると、小さな字を書く先生の板書は読めない。そんなあるとき、板書する先生に「もっと大きい字で書いてください」と頼んだことがあった。すると、その先生から「見えんときは心の目で見、聞こえんときは心の耳で聞くものだ」と理由のわからないことを言われた思い出がある。別に、禅やインド哲学の講義だったわけではない。せめて教室に笑いが起こればよかったのだが、当時の学生は真面目だったのかシーンとしている中、1人笑いをこらえたのを覚えている。
拡大公立はこだて未来大の本部棟。階段状の自習スペース全体が見渡せる=川津陽一撮影

 しかしながら、こんな教室の風景も遠い昔の遺物になっていくのかと思わされる体験をした。先日、2000年に創立された公立はこだて未来大学を訪問する機会があった。人里離れた郊外に建てられている校舎を見て、まず度胆を抜かれた。ほぼすべてがガラス張りで、学生、教員、職員の行動が外から見られるのだ。例外はトイレと「なぜか学長室だけです」と学長から説明された。ガラス張りのメリットは、冬の寒さの厳しい函館においては、省エネの観点からも大きいのだそうだ。5階建ての校舎だが、5階にいても1階、2階、3階、4階で皆が何をしているのか一目瞭然の構造になっていた。教授が研究室で居眠りしていれば、当然学生に目撃されてしまう。これを見て、米国のベル研究所でどの研究室の扉もいつも開けられていたことを思い出した。これは、研究者同士、研究分野の垣根を作らずに、いつでも誰とでも自由にディスカッションすることが奨励されていた証だった。

 各教室も、 ・・・ログインして読む
(残り:約1486文字/本文:約2208文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

秋山仁

秋山仁(あきやま・じん) 数学者、東京理科大理数教育研究センター長

東京理科大学理数教育研究センター長。1969年東京理科大学応用数学科卒、72年上智大学大学院修了。日本医科大助教授などを経て82年から東海大学教授、2012年から現職。駿台予備校でも長年教えた。「大道数学者」「レゲエ数学者」などと呼ばれ、NHK教育テレビほかテレビ出演多数。著書に「秋山仁の数学渡世」「数学に恋したくなる話」など。専門は離散幾何学。

秋山仁の記事

もっと見る