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700万年前ごろ、類人猿と進化の道を分かれたヒトは、その道筋半ばで「道具製作」という画期的な技を身につけた。先日、新聞紙面などで紹介されたアフリカ・エチオピアのコンソ遺跡で発見された175万年前から85万年前ごろ原人(ホモ・エレクトス)が作ったという石器群は、ゆっくりであるが着々と「道具」が進化していく様子をよくあらわしていた。われわれの能力の進化の痕は、確かに石器に刻まれている。「たかが石器」というなかれ。石器から見えてくることは少なくないのである。
拡大

 今回は、石器を実際に作ってみて作成中のヒトが一体何を考えていたか具体的に知ろうという研究を進めている実験考古学者、長井謙治氏(東北芸術工科大学芸術学部専任講師、取材当時は東京大学総合研究博物館特任研究員=写真)の実演付き講演を紹介しながら、石器研究の最前線をお伝えしたい。

「石器作りというのは、引き算しかできない。石を眺めて作りたい形を思い浮かべ、最適な角度で叩いてかけらを剥ぎ取り、次を考えてつくっていくんです」と長井さんはまず説明した。

拡大下は石器製作用の道具。右は鹿の角、硬い木片、骨を先に取り付けた木棒、硬い石。上は、材料の黒曜石の塊。左に、完成した握斧が見える。

 材料は、「天然のガラスの塊」ともいえる黒曜石だ。割れ口は鋭利な刃状になる。うまくやればカミソリレベルの刃物まで作れる。割るための道具も、単に他の石でゴチンとやれば済むわけではない。鹿の角や硬い木材といういわゆるソフトハンマーは、打撃のショックが柔らかく広めの範囲に効果があり、大きなかけらを剥ぎ取ろうという時に使う。硬い石はもっと細かい修正に使える。

 この日は、

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筆者

内村直之

内村直之(うちむら・なおゆき) 科学ジャーナリスト

科学ジャーナリスト。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程満期退学。1981年、朝日新聞入社。福井、浦和支局を経て、科学部、西部本社社会部、科学朝日、朝日パソコン、メディカル朝日などで科学記者、編集者として勤務し、2012年4月からフリーランス。興味は、基礎科学全般、特に進化生物学、人類進化、分子生物学、素粒子物理、物性物理、数学などの最先端と科学研究発展の歴史に興味を持つ。著書に『われら以外の人類』(朝日選書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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