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ガリバー旅行記の間違いみぃーつけた

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

がんの研究者で、岐阜大学学長を務めた黒木登志夫さん(日本学術振興会学術システム研究センター相談役)が、横浜市中央図書館の読書サークルで『ガリバー旅行記』を読んで、「原作の中の生理学的な間違いを見つけた」という。そもそも、物語の中で説明されているような小人や巨人は生理学的に見て存在不可能なのではないかと気になるところだが、黒木さんが指摘するのはそこではない。小人の国のリリパット人が、ガリバーの体の大きさを測って、必要食糧を計算するところに間違いがあるという。それをとても楽しそうに話す。研究者とは、たとえ相手が文学作品であっても、間違いを見つけると喜びがわくらしい。その喜びを追体験してみた。

 まずは岩波文庫を買ってきた。原作は大人向けの風刺作品だということを知識として知っていたが、つい読む機会を逸していた。読んでみたら、なるほど面白い。支配階級を徹底的に皮肉っている。この面白さは大人にならないとわからない。

 黒木さんが指摘する間違いの箇所には、読み始めて程なく到達した。リリパット人がいかに聡明か、ガリバーが説明しているところだ。この国の王様が、ガリバーが守るべきことを書いた文書を出した。その最後に、各条項を厳守したらリリパット人1724人分の食料と飲料が毎日支給される、とある。なぜこういう具体的な数字が出たのか。「数学者たちが四分儀の力を借りて私の背丈を測量し、それを彼らの背丈と比べた場合に12対1の割合になっていることを発見したが、両方の体の恰好が別に違っているわけではないことから考え、結局、私の体の容積が少なくとも彼らの容積の1724倍はある、したがって、それだけの数のリリパット人を養うのに必要な食糧がいる、という結論に達したのだという返事であった。これを見ても、ここの人々がいかに聡明であるか、この偉大な皇帝がいかに財政の面で慎重で精密であるか、読者にも大体の見当はつかれたと思う」

 ガリバー旅行記が出版されたのは、1726年。1643年生まれのアイザック・ニュートンが死ぬ1年前だ。体積の計算方法は古代ギリシャ人も知っていたのだから、ダブリン大学を卒業したジョナサン・スウィフトは当然心得ていただろう。身長が12倍だと、容積は12×12×12だと計算したはず。だが、12の3乗は1728である。

 もちろん黒木さんが問題にしているのは、それを1724と間違えていることではない。

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