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ロシアのチェリャビンスク州に2月15日に落下した隕石の大きさについて、ロシア科学アカデミー(RSA)の推定値(直径数メートル)と、米国航空宇宙局(NASA)の推定値(直径15mを後ほど17mに修正)に大きな開きがあった。同僚のロシア人によると、RSAの科学者はNASAの発表に対し「そこまでの精度があるはずがない」と不快感を示したそうだ。

 サイズの推定にNASAが使ったデータは、インフラサウンド(超低周波音波)と呼ばれる特殊な音だ。これは人の耳に聞こえないほどの低周波(20Hz以下)の音波である。音にしろ光にしろ海の波にしろ、波と言うのは伝播速度の低い媒質にエネルギーが集まる性質がある。音波だと、温度が低いほど遅くなる関係から、気温の低い上空大気にエネルギーが集まって、その層沿いに伝播するようになる。特に低周波の音は、波長が非常に長いお陰で到達距離が長い。従って、成層圏の境界まで伝わるような音(爆発)が発生したら、そのうちの超低周波成分が地球規模で伝播していく。特に、大気圏核実験のような極めて大きい爆音だと地球規模で伝わる。

拡大コンコルドの飛行を1000km以上離れたスウェーデン北部(イェムテム)で検出したインフラサウンドのデータ。横軸は時間(1997年3月22日 19時~19時30分)、縦軸はシグナルの飛来方向。前半の点が集中しているところがコンコルド起源である。スウェーデン国立物理研究所科学報告書(No 291, 2008年、L. Liszka名誉教授)から抜粋。元のデータはhttp://www.umea.irf.se/maps/で公開されている。

 火山噴火や雪崩、流星等も探知出来るので、無数にある音源をきちんと分離すれば、インフラサウンドは極めて強力な地球観測データと言えよう。例えばコンコルドの飛行方向(右図参照)や湾岸戦争時の油田炎上は1000km以上離れた中部スウェーデンで探知されている。しかし、その探知精度について専門家の意見は割れている。

 アメリカやカナダの研究者は、インフラサウンドからのエネルギー推定に高い精度があると主張しているが、私の勤める研究所の名誉教授は、火山噴火や核爆発と異なり、隕石のように飛行する物体から出されるインフラサウンドは伝わり方が極めて偏っていて、エネルギーの推定が難しいと主張している。この精度論争のどちらが正しいかは、この分野の専門家でない私にはわからない。

 NASAは、発表文によればたった5ヶ所の遠隔地でのインフラサウンドのデータを使い、サイズを15mから17mに修正した。これは、15mと17mの差がわかるほどの精度があると主張していることになる。しかし、被害の当事国の発表を大きく覆すような推定を公表するのなら、データぐらい見せて、推定の根拠をきちんと説明するのが科学的というものだ。そのデータをNASAは出さなかった。だから、軍事衛星などのデータを援用して推定したのではないかという勘ぐりが出てもおかしくはない。自国で起きた事件の正確な様子をスパイ衛星で ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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