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「顔」の見える信頼-柏市での経験から考える

内村直之 科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授

2011年3月11日の東日本大震災から2年たった。福島第一原発事故がもたらしたさまざまな課題については、この欄でも何回か取り上げた(たとえば、直近では「福島のデータを見て考えよう」)。特に、科学に関する問題を自分の力で読み解けるようにする「科学リテラシー」についてこだわってきた。ここ2年間、あちらこちらの勉強会に参加したりツイッターでの多くの人の議論を見たりして、問題は一筋縄ではないという感じがますます強くなっている。いろいろな意見を持った人がいるというのが悪いわけではないけれど、その間にある「溝」がどんどん深く広くなっているような気がするのだ。いわゆる「分断化」である。互いに相手の主張を顧みない、売り言葉に買い言葉の応酬……「目標」はもっとその先の方にあるはずなのに……。そんな現状をなんとかしようと活動している千葉県柏市の人たちの話に耳を傾ける機会があった。この文のタイトルはその時の「キーワード」である。

 柏市には、私も苦い思いがある。東京大学柏キャンパスの放射線問題である。私もちょくちょく訪れているそこで測定した空間放射線量が、同大学の本郷キャンパスや駒場キャンパスに比して数倍高いというデータがでたのは2011年年6月だった(東京大学環境放射線情報)。その記述にある①健康への影響②放射線量が高い理由、に対し、同大学の教員有志が疑問を持ち「総長への要請文」を提出した(「東京大学環境放射線情報」を問う東大教員有志のページ)。その後の経緯は、この2つのWEBサイトを見てほしいが、これをきっかけとして、柏市の「放射線ホットスポット」が大きな問題となった。当時、このホットスポット問題がずっと続くとは私には思えなかった。「一過性のものだろう」と高をくくっていたのだ。

 しかし、事故から7ヶ月以上たった2011年10月、柏市内で1時間あたり57.5マイクロシーベルトという高値が測定され大騒ぎになった。ショックを受けたのは住民だけではなかった。カブやホウレンソウ、ネギなどを作っている近郊農業に携わる人々も大ショックだった。さすがにそういう高線量のホットスポットは多くはなかったのだが、千葉県の放射能情報一覧を見ると、いまだに放射線量は、1時間あたり0.1マイクロシーベルト程度で、平常値の2倍ほどあるところがある。結果として「地元でとれた新鮮な美味しい野菜」は買い控えされた。そういう状況の中で、壊れかけた信頼を取り戻した人たちの話をしてくれたのは、

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筆者

内村直之

内村直之(うちむら・なおゆき) 科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授

科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程満期退学。1981年、朝日新聞入社。福井、浦和支局を経て、科学部、西部本社社会部、科学朝日、朝日パソコン、メディカル朝日などで科学記者、編集者として勤務し、2012年4月からフリーランス。興味は、基礎科学全般、特に進化生物学、人類進化、分子生物学、素粒子物理、物性物理、数学などの最先端と科学研究発展の歴史に興味を持つ。著書に『われら以外の人類』(朝日選書)など。【2015年10月WEBRONZA退任】

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