米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
こうした場所を細かく調べていくと、昔から同じように草刈りを続けてきた場所ほど、ススキのなかに豊かな在来の草原性植物が見られた。これに対して、草をあまり刈らなくなってしまったり、土木工事や肥料施用などによって土地の性格が改変されたりした場所は、外来のセイタカアワダチソウなどが侵入して在来の植物が減っていくという変化が起こっていることもわかってきた。
ススキは、株が毎年少しずつ大きくなるが、地面全体を覆うようなことはしないため、株と株の間にはいろんな植物が生える隙間が残る。定期的な草刈りを繰り返すことで、そうした隙間にも日光は確実に当たり、たくさんの草原性植物を育むことにつながっているようだ。
稲垣さんは「茶の栽培という農業の営みの中で、自然と里山の中に草地が守られている。調べた地区では夏の盆の時期にススキなどを飾ってきた。そんな文化も関係して、結果的に貴重な花々が守られてきたようだ」と言う。「いつも見ていた植物が研究者に騒がれるようなものとは思わなかった」と驚く農家の人たちの言葉には、日常の作業と結びついた自然の恵みが感じられる。
静岡県で茶の栽培が始まったのは鎌倉時代にさかのぼるが、生産が活発になったのは江戸時代以降とされる。茶草場農法の起源ははっきりしないが、農環研の楠本良延さんは研究所の書庫にあった戦時中の本に、草を入れることで茶畑の土壌の物理性を改善できるという記載を見つけた。「茶畑にススキを敷くことは、昔から技術としてきちっと位置づけられていたようだ」と話す。
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