メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

スペイン最新報告/再生可能エネルギー利用の経験から学ぶもの

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

世界的な再生可能エネルギー利用の拡大で大きな成果を収めたスペインは、いままた大きな経済危機に直面している。そこでスペインの再生可能エネルギーのバブルと経済危機に直接に関係があるかのような印象がもたれている。したがって、スペインの風力発電などの実際を見ることによって、再生可能エネルギー拡大の経験から教訓をくみ取る必要がある。

 まずスペインと日本を簡単に比較すると、面積は51万km2で日本の134%、人口は4412万人で日本の35%、発電設備容量は8万9944MWで日本の45%、発電量は約28万GWhで日本の29%である

 再生可能エネの概要

ラ・ムエラ拡大風の町「ラ・ムエラ」

 再生可能エネルギー分野のスペインの位置は、まず風力発電容量ではEU内でドイツにつぐ第2位で(世界4位)、太陽熱は世界1の生産、太陽光ではEU内3位である。再生可能エネルギーは、スペインの1次エネルギー供給の約15%を供給し、電力生産の約30%を占めている(2012年)。内訳は、風力18%、水力7%、太陽光3%などである。とくに風力発電は2万2362MWで、出力100万kWの原発22基分に相当する。風力の稼働率が30%弱としても7基分に相当する。風力による直接雇用で約3万人を生み、ガメサ社は、世界4位の風力発電メーカーで輸出産業となっている。スペインの再生可能エネルギー利用は、1997年の法律で促進されるようになった。

 再生可能エネ産業のGDPへの寄与率は、約1%を占めて、年々伸びており、いまや漁業部門、製靴部門よりも大きくなっている。雇用効果は直接、間接あわせて約11万人である。とくに、太陽熱と集光型太陽熱発電は、スペイン独自の取り組みである。研究開発への再生可能エネ産業の寄与度(4.5%)も無視できない。CO2削減効果、省エネ効果、NOx,SO2削減効果、化石燃料輸入代替効果(21億ユーロ)も大きい。

 スペインの再生価格固定価格買取制度

 スペインは5大電力会社(エンデサ、イベドローラガスナチューラ、フェノーサ、エーオン、イドロ・カンタブリコ)が、電力市場の約8割を占め、それぞれが原子力、天然ガス、石炭、水力などをもっているが、とくに天然ガスのコンバインドサイクル火力発電所の設備は、経済バブル期の2002年から06年に増強されて、過剰設備になった。スペインの再生可能エネルギー固定価格買取制度は、1994年から始められ、2011年末までは、風力0.08ユーロ(約10円)/kWh,太陽光0.125ユーロ(約15円)/kWhであるが、2008年当時太陽光買取価格をそれまでの2倍の0.44ユーロ/kWh(約50円)としたために、「PVバブル」が発生し、500MWの目標は3000MWを達成し、その後にPV関係者の破たんが相次いだ。

 再生可能エネのコントロール

 スペインの再生可能エネが拡大するなかで注目されているのが、スペイン電力送電網のネットワークコントロールである。REE(Red electrica de Espana)は、スペインのTSO送電会社で、1985年に設立された。マドリッド北東に立地する全国電力の送電コントロール・センターに再生可能エネコントロールセンター(CECRE)も併設されている。正確な再生可能エネの予測に基づいて、電力網がコントロールされており、我々が見学した3月8日には、水力と風力など再生可能エネで電力需要の57%を賄っていた。2012年4月16日の夜中には、風力発電が60%に達した。1日前取引に基づく計画値は赤、予想値は緑、実需は黄色で表示される。各風力発電の設備側に出力調整・貯蔵の義務はなく、全体でバランスをとり、風力発電の出力カットの場合には、フランスを通じてEUとの接続線で送電を受ける。

 ラ・ムエラ 町の風力発電と地域経済起こし

 風力発電による地域経済起こしとして、スペイン北東部アラゴン州のラ・ムエラ町の事例を紹介しよう。風力条件の良い標高600mの台地に12のウインド・ファームが立地し、風車は合計328基225MWにもなる。もともと大手電力会社のエンデサが1986年に10基(20MW)の試験操業を始めた。その後、全国的な再生可能エネ買取制度の充実により、外部からの投資による風車発電機の設置料と土地代が町の収入として入り、それをもとに町は工業団地を造った。人口が2000年の1000人から10年間に5000人に増えた。ベスタス社の地中海地域コントロール・センターも立地している。風力発電は20年契約で送電インフラができているので、今後は大型化の計画がある。ただし、前町長時代の放漫財政により、スペイン全国を覆った住宅バブル投資と闘牛場などへの不要インフラ投資建設のために、いま町は財政危機にあるが、「風力バブル」はその原因ではない。一歩一歩確実に進めることが大切な教訓であるという。

 スペイン電力価格の問題点

 スペインの電力価格は、自由化された市場価格と統制価格の2つの部分からなる。そのうち、上限額の決められた統制価格部分に再生可能エネ買取価格分が入っているにもかかわらず、その統制価格のコスト構造が十分には明らかにされていない。2008年には、石油と天然ガスの価格上昇があったにも関わらず、政治的理由で電力料金の値上げがされなかった。その部分は、電力会社の未収金になっており、約120億ユーロが証券化されて、政府保証はされているが、スペイン国債の格付けが下がると、リスクは大きくなる。

 スペイン再生可能エネルギー協会(APPA)によれば、再生可能エネ拡大が電力赤字の原因とされているが、それは事実と異なるという。2011年でみれば、50億ユーロの再生可能エネ固定価格買取の支払に対して、配電管理コスト54億ユーロ、赤字補てん支払(統制価格)18億ユーロ、出力容量支払(天然ガスなどの設備分)15億ユーロなど、再生可能エネ買取価格分をはるかに上回る支出が諸コストとして、支払われていることがわかるという。

 実際、2012年3月に、EUはスペイン政府に対して、勧告を出して、市場競争が機能しておらず、原子力と水力がコストゼロとして計算されているのに対して、天然ガス発電所のコストが高いところに設定されているという問題を指摘している。

 枠組みの変更の問題

 2011年の総選挙により、保守党政権にかわり、2012年1月から電力料金の値上がりを止めるという理由で、新規の再生可能エネ固定価格買取はモラトリアムとなった

・・・ログインして読む
(残り:約896文字/本文:約3561文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

吉田文和の記事

もっと見る