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「数学」と写真家が遭遇すると

内村直之 科学ジャーナリスト

京都大学で春休み時期に開催された日本数学会の会場で、ちょっと面白い展示があった。題して「数学者の貌(かお)」。数学を語る人たちの顔がずらりと並んでいる。これがなかなか魅力的なのである。
展示された河野裕昭さん撮影の「数学者の貌(かお)」の数々。=京都市左京区の京大で

 例外はあるだろうが、「数学者」という存在はめったにマスコミに登場しない。仕事の数学自体が難解だからということもあるが、シャイな人が少なくないということもありそうだ。だから数学者の現実の姿を普通の人が見ることはほとんどない。頭の中もわからなければ、どういう顔をしているかもよくわからない。そういう数学者という存在を、あえて陽の当たる場所に引っ張りだそうという試みが、このささやかな写真展であった。

写真展のタイトル

 数学者の活動する舞台の一つは、大きな黒板の前である。黒板は、講義室にあることもあれば、数学者が研究する自室にもある。黒板前でチョークの一本を持ち、数学する彼らは見るものを魅了するのである。たとえば、京都大学理学部の学部生を教えている三輪哲二さんのこんなパフォーマンス……。数学を学ぶことを「マンモス狩り」にたとえた人だからこその表情と身振りである。

三輪哲二京大教授講義の連続写真。三輪さんはこの3月で京大を退職した

 この写真を撮ったカメラマンは河野裕昭さんである。日本酒ができるまでを詳細に撮った写真集『大吟醸』という名作を撮っているが、これまで数学・数学者とは縁もゆかりもなかった。同じ酒好き仲間でもあった編集者の亀井哲治郎さんから、「数学者を撮ってみませんか」と声をかけられたのが昨年夏ごろ。長年、数学雑誌を編集してきた亀井さんを「通訳」として挟んで、東京大学、京都大学、九州大学などで数学者を追っかけた。ある時は授業、ある時はインタビュー風景、ある時はおしゃべり……。河野さんは会場に掲示された「撮影後感」に、こんなことを書いていた。

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