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続・原発鳴動、ネズミ一匹 〜「想定外」を問う無意味

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

原発の安全管理とそれを「出し抜く」ような事故によって、「想定外」をどう捉えるかという問題が常に提起される。これは優れて心理学的な問題だと考えて、筆者もそれなりに取り組んできた。その意味では(生き物の予想外のふるまいということとは関係ないが)、NHKスペシャル「メルトダウン 原子炉“冷却”の死角」も示唆的だった。番組は、3号機への消防車による注水が結果的になぜうまく行かなかったか、そこに焦点を当てて検証している。
福島第一原発3号機爆発後の2011年3月18日に3号機(左)に放水する自衛隊の消防車。中央奥が4号機=陸上自衛隊中央特殊武器防護隊撮影

 もともと原子炉周辺には、さまざまな目的の配管が張りめぐらされている。途中のバルブなどをうまく操作すれば、本来の目的でないルートで一本の道を作り、外から原子炉に注水できる。3月13日朝から、この日だけで400トンを消防車から注水。「当面の危険は避けられた」と政府も発表したが、3号機は翌日水素爆発。結果において水は原子炉にほとんど届いておらず、途中枝分かれした配管から復水器という装置に大量の水が溜まっていた。このことは2週間も後になってからはじめて発表された。

 そもそもこのような複雑な操作を、一度も練習してこなかったのが大きな問題だった。だがそれにも増して、注水が原子炉ではなくて復水器に達してしまった原因が興味深い。平常運転では復水器側の気圧が高く、それが水の浸入を防ぐはずだった。ところが全電源停止の異常事態で復水器の気圧が下がっていることに、誰も気づかなかった。

 結局、危機状態での操作が、平常運転での周辺条件を前提に行われていたナンセンス、ということになる。その意味では、以前にも検証された2号機の場合と同じだ(本欄拙稿「メルトダウン 連鎖の真相」)。その上、そのことが判明するのに、専門家による何週間〜何ヶ月もの検証と実験を要した。

 複雑なシステムのふるまいを予測するのは、もともと簡単ではない。非常事態で周辺条件も異常だったり、あるいは仮設でつぎはぎだらけだったりした場合にはなおさらだ。当然トラブルシューティング(=原因究明)にも時間を要する。そして時間を要すること自体もまた危機を深める。

 以上を念頭に置いて、今回のネズミによる停電事故は「想定外だった」のだろうか。

 そうとも言えるし、違うとも言える。

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