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ちょっと待った!小中学校でのプログラミング教育

まつもと ゆきひろ ソフトウェア技術者、Ruby設計者

最近、小学生や中学生へのプログラミング教育が注目されています。社会におけるコンピューターの重要性は明らかで、そのコンピューターはソフトウェアがなければ役に立たず、そのソフトウェアは人間にしか作れないのですから、ソフトウェアを開発する人、つまりプログラマーを養成することは急務です。

 養成するには若い時期から教育した方がいいと考える人は多いと思います。確かに優秀なプログラマーは若い頃からその才能を発揮している人が多いようです。また、プログラミング能力はあまり年齢に関係ないようで、天才と呼ばれる小学生プログラマーもいます。一方で、70歳をはるかに超えて現役で活躍する方もいらっしゃいます。

 では、プログラマーを育てるのに、小学校や中学校での情報処理の教育やプログラミング教育に力を入れれば良いのでしょうか? 自分自身のプログラマーとしての経験から考えると、これにはなかなか困難がつきまとうように思えます。

 第一の課題は「誰が教えるか」という点です。

 学校をプログラミング教育の現場にするためには、当然のことながらプログラミングを教える教師が必要です。しかし、現在の小学校・中学校の教員でプログラミングの能力を持つ人はごく少数でしょう。もちろん、教科書通りに教えることができる人は短期間で用意できるかもしれませんが、それでは子供たちにプログラミングに前向きな気持ちを伝えることは困難でしょう。

 中学生時代にプログラミングをはじめた私自身も含めて、若い頃からプログラミングに「はまった」人たちは、結局、コンピューターを使いこなすのが楽しいからこの道に進んだようなもので、教科書に書いてあるから、あるいは学校の授業だからという理由でプログラミングをはじめた人など見たことがありません。プログラミングを教えるというのであれば、少なくとも教える人はプログラミングの楽しさを自覚している人でなければ成果をあげられないと思いますし、そのような人をそれぞれの学校に配備するのは大変難しいのではないかと思います。

 第二の課題は「どのように評価するか」ということです。

 学校の授業であるということは、なんらかの評価をする必要があるわけですが、これがまた困難です。まず、プログラミングの能力は、創造性をともなうという点である種芸術に似ています。そういう点では美術の授業に似ているのですが、問題はプログラミングの場合、

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