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コミュニケーション力が足りないのは誰だ

秋山仁 数学者、東京理科大特任副学長

新学期も始まり、新しい生活が始まる人、または新しく何かを始めたいと思う人が多いためか、毎年、この時期の書店は何となくフレッシュで華やいだ感がある。例年、勉学の本、スキルアップの本、趣味の本がたくさん並ぶがその中でも、今年、特に目立つのが、コミュニケーションに関する書籍群のように思う。

 私が手にした中で興味深かったのは、『聞く力』(阿川佐知子著・文春新書)、『雑談力が上がる話し方』(斉藤孝著・ダイヤモンド社)、『わかりあえないことから』(平田オリザ著・講談社現代新書)の3冊だ。名インタビュアーの豪華ゲストたちとのエピソードが面白いのが『聞く力』、「 人と話すのが苦手だが何とかしたい」という悩みを持つ若い人たちへ実践的アドバイスを贈る良書が『雑談力が上がる話し方』だ。社会的な責任度や状況の複雑さによって必要とされる、コミュニケーション力はどう違うのか、また、それを育むための教育はどうあるべきかについて様々なことを考えさせられたのが『わかりあえないことから』であった。

 先々月で12万部を突破したという『雑談力が上がる話し方』は、様々な場面で一緒になる初対面の人やあまり親しくない人と何を話していいかわからず気まずい時間を過ごしてしまうという人々に向けて、まずは、「挨拶から30秒間雑談する力を身に付けよう」という指南書だ。だが、ターゲットとしている若者以上に、若者のコミュニケーション不足を嘆いている大人たちにも読む価値があると思う。雑談力を鍛えるためのアドバイスは、「中身のあることを話そうと思う必要はない。ムダなことを話せばいい」、「雑談に結論はいらない。サクッと切り上げればいい」、「自分がたくさん話そうと気負わず、相手に話題を振って質問すればいい」、「雑談に向いている話題、向いてない話題はどういうものか」等々、実践的だ。こう聞いて、「社会や国際舞台が求めているコミュニケーション力は、こんな易しいレベルのことじゃないだろう」と思う人もいるかもしれないが、いま一度考えていただきたい。『雑談力』の序文にも書かれているように、「かつてはご近所や親戚、兄弟など社会の中で雑談力は自然と鍛えられ身につけられたが、現在はそういう機会が少なくなっている」のである。こういう対人関係の基本、コミュニケーションの初歩的なことができずに困っている若者が多いのが日本の現状なのだ。

 そもそも

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