2013年04月11日
日本のエネルギー政策で今必要なのは、福島事故の反省を政策に反映させること、それは原発数を大きく減らすことだ。今回の新規制基準を「事故に弱い原発、止める原発」を見極める指標にしたい。
■原発の新規制基準案のポイント
<過酷事故対策など> ・事故時の原子炉冷却設備の設置(電源車、消防車、フィルター付きベント設備など) ・遠隔で原子炉を冷やす緊急時制御室の設置 ・免震機能を持つ緊急時対策所の設置 ・緊急時の原子炉冷却設備配管を2系統設置 ・燃えにくい電源ケーブルへの交換
<地震・津波対策> ・活断層の真上に原子炉建屋などの設置禁止 ・活断層の認定で「過去40万年間」を調査 ・原発ごとに最大級の「基準津波」を策定
<40年運転制限と運転延長の例外規定> ・例外を適用するには最新の規制基準に適合 ・原子炉の劣化状況など特別な点検の実施■
新基準(表)は、これまでほとんどやっていなかった過酷事故への備えを強化し、地震・津波、火災、航空機によるテロなどへの対策を大幅に強化した。こうしてみると、これまで、いかに緩い事故対策で運転していたかがわかる。
既存の原発もこれらを満たさなければ運転を許されない。地震・津波対策では、原子炉建屋などの真下に活断層があれば、その原発は運転できないことになる。
ただ、格納容器の容積が大きい加圧水型炉(PWR)のフィルター付きベント設備と、遠隔で原子炉を冷やす機能をもつ緊急時制御室(いわゆる第2制御室)は建設に時間がかかることもあり、5年間の猶予がある。つまり5年以内に設置すればいい。
注目されているのが、「ケーブルの不燃化」である。ケーブル火災は原発導入の初期にはあまり問題にされていなかった。しかし、1975年3月の米国ブラウンズフェリー原発の火災では、発火から消火まで8時間を要し、安全系に属する628本を含む1600本以上のケーブルが焼損して制御、冷却機能に大きな障害が出た。この反省から日本でもその後、燃えにくい材質でケーブルを覆った難燃性ケーブルを使うこと、重要なケーブル同士の距離を開けるなどが義務づけられた。
したがって、問題になるのは、それ以前の古い原発13基(50基中)だ。表。
関西電力の7基(美浜1~3号機、高浜1、2号機、大飯1、2号機)。中国電力・島根1号機。四国電力・伊方1号機。九州電力・玄海1号機。日本原電の2基(東海第2、敦賀1号機)。東電・福島第1の5号機。
原発は、配管(パイプ)とケーブルのオバケのようなつくりになっており、ケーブルの長さの延長は1000キロを超えるとされる。難燃性ケーブルへの交換は極めて難しい。電力会社は、「ケーブルの被覆材は可燃性であっても、その上から難燃性の材料を吹き付けて(巻いて)いるので同等の難燃性能が保てる」と主張しているが、その証明も簡単ではない。
ケーブル以外で厳しいのは、沸騰水型炉(BWR)の「フィルター付きベント設備」だ。BWRの格納容器は小さいので、福島原発事故でもさまざまな不都合、損傷が起き、放射能の大量放出を招いてしまった。したがって、これには猶予期間はない。
こうした問題を抱える原発を新基準に合わせるには大規模な工事が必要になる。しかし、一方で、原子炉等規制法では「原発の運転は原則的に40年とする」と寿命が定められている。「例外的に20年の延長」があるにはあるが、原則は「40年」だ。古い原発はすでに30年を超えている。多額のコストをかけてさまざまな工事をして延命を図るのではなく、廃炉という選択もあるだろう。改善工事をすれば何でも「元に戻る」のではなく、経年変化による問題も多いし、そもそもの「設計の古さ」は克服できない。
福島事故から2年が経過したが、原発、エネルギー政策では、多くの国民が納得する政策変更が行われていない。
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