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電機産業再浮上の鍵は模倣能力を取り戻すことではないか

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

最近、2冊の本を読んだことがきっかけで、“創造”と“模倣”に対する考え方が、大きく変わってしまった。結論から言うと、模倣なしに創造はあり得ないし、模倣から創造が生まれると思うようになった。

 まず、“創造”とは何か? 私は何となく、「無から有を生み出すこと」のようなイメージを持っていた。ところが、地球物理学者の赤祖父俊一著『知的創造の技術』(日経プレミアシリーズ)によれば、科学哲学においては「創造とは二つ以上の事実または理論を統合すること」と定義されており、統合する事実が特に相互にまったく関係が無いと思われているものであるほど創造性が高いと論じている。

 有名な例としては、ニュートンは木から落ちるリンゴと、太陽の周りをまわる惑星運動を結びつけることによって、万有引力の法則を導き出したことなどがある。

 「創造は統合」という定義は、科学だけでなく企業活動にも当てはまる。あらゆる新製品は、既に存在する部品や技術の統合からつくられる。そして科学創造と同様に、統合する要素が遠く離れているほど、その新製品は人の意表を突き、イノベーションを起こす可能性が高くなる。

 例えば今は亡きスティーブ・ジョブズがつくりだしたiPhoneは、「音楽と携帯電話とコンピューター」を統合した。視点を変えれば、「デザインとテクノロジー」と統合したともいえるし、「技術と芸術」を結び付けたと言えるかもしれない。

 さて一方、“模倣”については、私は相当にネガティブなイメージを持っていた(皆さんもそうではないか?)。「お前は模倣している」などと面と向かって言われたら、間違いなく腹を立てるだろう。

 ところが、オハイオ州立大学フィッシャー・カレッジ教授のオーデット・シェンカー著『コピーキャット』(東洋経済)によれば、「模倣とは複雑で希少な能力であり、イノベーションを生み出す必須要素である」という。

 知識も技術も模倣により伝達される。伝達される際に改良が加わり、それが歴史的な時間の中で蓄積され発展していく。つまり、模倣は、人間が進化し文明が発達するうえで極めて重要な役割を果たしているのである。

 身近な例で言えば、

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