メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

復興国立公園にエコツーリズムの見取り図を

山極寿一 京都大学総長、ゴリラ研究者

 東日本大震災によって大規模な被害を受けた青森県から宮城県に至る太平洋沿岸地域を、三陸復興国立公園として指定することを環境省が発表した。

 この地域は昭和30年に陸中海岸国立公園として指定されて以来、公園地域が何度も拡張されてきた風光明媚な場所である。北部は大規模な海岸段丘と海食崖、南部は複雑に入り組んだリアス式海岸で、変化に富む景観や植生によって特徴づけられる。地殻変動と波の力によってできた奇岩が連なり、露出した古い地層からは恐竜の化石なども見つかっていて、世界のジオパークとしても名高い。豊かな生物相を育む藻場や干潟も発達していて、ウミネコなどの海鳥類が多い。クロコシジロウミツバメの日本で唯一の繁殖地にもなっている。世界の三大漁場のひとつとして、水産業も盛んである。

 それが今回の大きな地震と津波によってことごとく破壊された。多くの方々の生命が失われ、建物が崩壊し財産が押し流された。この損失や被害に対する復興活動は現在も続けられているのだが、今回の国立公園の指定はその一環として自然環境の復興とその利用にやっと目が届くようになったということだと思う。地震と津波は多くの場所で地盤を沈下させ、砂浜を消失させた。干潟や藻場も大きな変化を受けた。その影響がどこまでおよび、それが今後どのように変化していくかを科学的見地からモニタリングしていく必要がある。

 三陸復興国立公園の計画では、森・里・川・海のつながりの再生と持続可能な社会を担う人づくりを目標にして、里山・里海フィールドミュージアムの施設整備と復興エコツーリズムの推進を図ることをうたっている。新しいエコツーリズムの象徴として東北海岸トレイルを建設し、歩いて貴重な自然環境を学ぶとともに被災の様子を記録し、豊かな文化を実体験しながら楽しもうとする企画もある。すばらしい計画だと思う。日本各地で森・里・川・海のつながりが失われ、人々の生活が安定を失っている現代、この試みは東北だけでなく日本復興のいいモデルになるに違いない。

・・・ログインして読む
(残り:約929文字/本文:約1771文字)