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電王戦の衝撃(上)将棋が変わるとき

2013年第2回大会観戦記

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 衝撃的な一局だった。電王戦最終第5局は、GPS将棋の一方的な対局となり、102手を指したところで、先手三浦弘行八段(順位戦A級)の投了となった。これで、第二回電王戦は、コンピュータ側の3勝1敗1分けとなり、プロ棋士チームが負け越しとなった。

 私はこの対局をニコニコ動画で見始めたのだが、結局、対局後の記者会見まですべて見てしまった。ネット中継からも、その衝撃は伝わってきたように思える。

 とくに第5局は、三浦八段にこれといった失着があったとは思えない。それなのに、相手の矢倉に攻めを仕掛けることもできず、入玉戦にも持ち込めず、完全に力負けという様相といえた。三浦八段はGPS将棋が入玉戦にも力を発揮できることを練習で認識しており、入玉戦をめざした訳ではないと、対局後のインタビューで発言している。しかし実際には、たとえ入玉をめざしたとしても、GPS将棋はそれを阻止する打ち手を交えながら対局を進めていたので、入玉戦に持ち込むことも難しかったと思われる。

 第5局は、プロ棋士の力負けともいえる展開で、とくに目立った失敗がないのに完敗してしまったということは大きな衝撃である。勝ち負け自体以上に、このことが試合後の対局室の空気を非常に重苦しくしたといえる。この内容での敗戦は、あまりに精神的ショックが大きい。対局後の記者会見でも、三浦八段は「どこが悪かったのかわからない」と語っている。これは、一つひとつの指し手の評価において、GPS将棋がプロ棋士を上回っている可能性を示唆していると思われ、明確な失着による敗戦よりもはるかに衝撃度が大きい。

 また序盤戦で、GPS将棋は、定跡に沿った展開のなかで今までの定跡にない手(後手42手目8四銀)を指している。これが新定跡の発見につながるかなどの可能性も含めた今後の検証が重要になる局面も出てきた。

 ネット中継にときどき表示されるGPS将棋の先読みの可視化画面を見ると、中盤からほとんどの状態で優位となり、最終局面の100手近くでは、全指し手での大幅な優勢評価となっていたように見えた。

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筆者

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき) ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長兼所長。1984年国際基督教大学教養学部理学科卒業後、日本電気に入社。88年米カーネギー・メロン大学客員研究員。91年、京都大学で博士号(工学)を取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、犬型ロボットAIBOなどの開発にかかわった。2008年に現職。NPO法人システム・バイオロジー研究機構会長を兼務。Computers and Thought Award (1993)、ネイチャーメンター賞中堅キャリア賞(2009)などを受賞している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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