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漂流するプルトニウム/日本がPuを「売る日」

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

東京電力が4月23日、一つの発表をした。フランスにある東電所有のプルトニウムと英国にあるドイツの会社のプルトニウムを帳簿上で「交換」するというものだ。大きなニュースにはならなかったが、極めて興味深いできごとだ。プルトニウムは世界中で厄介物になり、もてあまされている。今回は「交換」だったが、将来は「売却」「譲渡」も考えられる。実際、英国は「プルトニウムを譲り受けて処分しましょうか?」と日本に提案している。今回の交換は、原子力関係者の間で「現実味がある」とささやかれている「プルトニウムを英国に『売却する日』あるいは『お金を出して引き取ってもらう日』」への第一歩なのか。

 東電の発表の記事は次の通り。(朝日新聞4月24日朝刊)

 東京電力は23日、原発のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を作るためにフランスで所有していたプルトニウムの一部を、独電力会社が英国で所有していた同じ量のプルトニウムと交換した、と発表した。海外のプルトニウムと交換したのは、国内の電力会社では初めて。

 交換後は独電力会社が英国原子力廃止措置機関で保管していたプルトニウムが東電の分となる。福島第一原発の事故でMOX燃料を使うめどが立たない東電と、早期に利用したいドイツ側の利害が一致した。

 交換したのは東電がフランスで所有するプルトニウム約2・5トンのうち434キロ分。帳簿上の交換で輸送しない。東電が英仏に所有するプルトニウムの総量は約7・4トンで、交換後も変わらない。

 東電は、福島第一原発3号機でMOX燃料を燃やすため仏燃料会社に加工を依頼したが、3号機は事故で廃炉が決定。使う予定がないため、仏にあるプルトニウムの扱いが課題になっていた。一方、英国のMOX燃料工場の閉鎖で困っていた独電力会社は、フランスでMOX燃料に加工できるようになった。

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 つまり、同じ量の粉末プルトニウムを帳簿上で入れ替えたということだ。「お金」だったら何も問題はないが、核兵器物質の交換は極めてまれだ。取り扱いがあいまいになれば、核兵器への転用、つまり核拡散のリスクが増す。「日本の使用済み燃料から生まれたプルトニウムがどこかの国の核兵器になっている」と考えるのも気持ちのいいものではない。混ぜたりしなければ、プルトニウムの同位体の組成を調べればどこの国の炉でつくられたものかをたどることができるようになっている。指紋のようなものだ。

拡大フランスから関電向けのMOX燃料輸送に使われている輸送船。今春、英国で。(photo by Martin Forwood)

 今回の交換は、「早くMOXにして使い切ってしまいたいドイツ」と「プルサーマルの計画がたたないのでいつMOXをつくれるかわからない東電」とで行ったものだ。プルトニウムが英仏海峡を行き来する手間が省かれた。東電はフランスから「無期限に保管はのばせない。早く引き取ってくれ」ともいわれていた。核不拡散については「非核保有国のドイツとの交換だから問題なし」と、日本の原子力委員会も了承した。

 英、仏、日、独のすべての関係者の小さな面倒を減らした措置といえる。しかし、海外にある日本のプルトニウム35トンをどうするのかという本質的な問題は残っている。そもそも日本でのプルサーマル計画が今後どうなるかわからず、英仏のプルトニウムを日本に引きあげるめどはたたない。

 そこで注目されるのが、英国の動きだ。英国は2011年末、プルトニウム管理について新しい方針を出した。これが2012年12月21日付けで、「英国のプルトニウム管理について」という駐日英国大使館作成の日本語の文書として、原子力委員会に提出されている。

 特筆すべきは「海外顧客所有のプルトニウムについて」という項目に、「英国政府は英国内に保管されている海外顧客のプルトニウムの所有権を取得し、英国の政策に従って管理するオプションがある」ことを明記していることだ。

 英国政府によれば「英国国内に100トン以上の民生用プルトニウムがあり、その25%が海外顧客のもの」となっている。海外ものの多くは日本の電力会社の所有物だ。つまり、英国は「日本のプルトニウムを英国が引き取って管理・処理してもいいですよ」と提案しているのである。

 日本の政府にも電力業界にもメンツがあるので、今は「プルトニウムを捨てる」などとはいわないだろう。しかし、日本も本当はプルトニウムをもてあましている。英国の申し出は検討の価値がある。日本の公式の原子力路線は今も「使用済み燃料の全量再処理、当面は全量プルサーマル、将来は多数の高速増殖炉が林立する核燃料サイクルを実現」という昔の教科書のままだが、こんな時代がくると信じている人はあまりいない。

 実は英国もプルトニウムの利用あるいは処分法が決まっていない。世界一の量(ある資料では民生用で自国分は90トン近く、外国のものを含めれば120トンほど)をかかえ、使い道がなく大変に困っている。プルサーマルをしようにもMOX燃料製造工場は閉鎖されたし、プルサーマル計画が可能な軽水炉は1基しかない。新しい軽水炉をつくろうという動きはあるが、なかなか実現しない。「利用する」だけでなく、いまでは、「プルトニウムを使用済み燃料と混ぜて一緒に地中に捨てる」というアイデアもある。

 どんな方法になるか分からないが、英国はとにかく何らかの方法で自国のプルトニウム処分を行う必要があるし、やる気だ。そのとき、日本など海外のプルトニウムも引き取って一緒に処分し、それをビジネスにしようと考えているのである。

 日本にとっては、かつては英国の再処理工場(ソープ)の建設費の3分の1の負担してまで抽出したプルトニウムである。その歴史から考えれば、「捨てる」というのは、とても受け入れられないこととも思えるが、時代は変わった。プルトニウム利用は面倒で高くつくようになった。冷静に経済面から考えると、「捨てる」というオプションもまじめに考える必要がある。

 東電とドイツ社とのスワッピングができるのであれば、所有権の移転、譲渡も可能だろう。相手は、長年再処理を委託してきた英国である。核兵器所有国であり、核拡散の心配もない。

 実際、23日の東電の発表の際、「将来、英国に渡す」ことをイメージした質問がでた。

 記者「(今回の措置で)お金が発生しているのか?東電が払った方か、それとも受け取った方か、知りたい」

 東電「申し訳ございません(答えず)」

 記者「英国が将来的に自国所有のものとして処理、活用することがあるということだが、そのあたりまで視野に入れているのか?」

 東電「英国は、条件や国レベルの合意が整えば、海外のプルトニウムについても所有権を引き受けるという準備があるというところは承知しているが、まず、所有権については、日本政府の方針としては、海外で再処理、回収されたPuについては、MOX加工して、日本に持ち帰って利用するというのが方針ですので、これは事業者として判断できるものではない」

 まさに、そうすれば、東電のいうとおり、国の路線そのものの変更になる。このオプションをまじめに考えることは、「使用済み燃料やプルトニウムは『資源』か『ごみ』か」という問題を考えることでもある。近い将来、日本が英国にプルトニウムを渡す場面をイメージしてみればいい。そのとき英国が日本にプルトニウムの代金を払うとは思えない。日本が英国に「処分費」を出すのが普通だろう。そうであればプルトニウムはすでに「資源」ではなく「ごみ」になっているともいえる。

   ◆

 なぜ海外に大量の日本のプルトニウムがあるのかも振り返っておきたい。日本は初期の原発運転で出た使用済み燃料のうち5000トンについて、再処理を英国とフランスに委託した。

 英国セラフィールドにある再処理工場「THORP(ソープ)」、フランス・シェルブール近くにあるアーグ再処理工場での再処理はほぼ終わり、両国に粉末状態のプルトニウム35トンが保管されているのである。日本でプルサーマルのめどがたてば両国のMOX燃料製造工場などでMOX燃料に加工し、日本に運んでいる。(日本はこのほか国内に10トンで計45トンのプルトニウムを保有している)

 以前は一部を粉のままで日本に運ぼうとしていた。1992年11月から翌年1月にかけ、もんじゅの燃料製造などに使うプルトニウム粉末1トンをフランスから日本に輸送したが、「核兵器材料の輸送」として大騒ぎになった。積み込み港であるフランスシェルブールには反原発団体や各国の記者が押しかけ(私もいた)、大規模警備の中で、夜陰に紛れて極秘に積み込んだ。

 プルトニウム輸送船「あかつき丸」は日本から赴いた海上保安庁の船に護衛されて日本に向かったが、それを国際環境団体グリーンピースの船が追跡し、航行ルート上にある南太平洋の国々は「我が国に近づくな」と反発した。そうした様を外国の新聞が「フローティング・チェルノブイリ」(漂流するチェルノブイリ)と書くなど、日本は大きな苦労を強いられた。

 これを教訓に日本政府は、「プルトニウム粉末での輸送をせず、MOX燃料に加工して持ち帰る」という方針に変えた。すでに何回かの輸送を実施している。(写真)

   ◆

 いま、世界の原発保有国31カ国は、プルトニウムの扱いで三つに分かれている。

 1)再処理をしているか、計画している国(日本、フランス、ロシア、英国など8カ国)

 2)他国への再処理委託をやめたか、止めようとしている国(ドイツ、スウェーデン、スペイン、スイスなど11カ国)

 3)再処理をしていない国(米国、韓国、カナダなど12カ国)

 再処理をしている国でも全ての使用済み燃料を再処理する「全量再処理」の方針を持っている国は日本だけである。

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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