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インターネットを活用した新しい教育システム「ムーク」のインパクトが、世界を駆け巡っている。米国のトップの大学が発信源だが、その影響はたちまち波及、日本でも東大をはじめとして対応がはじまっている。高等教育や教育産業はどう変わるのか。急速に変貌する現況をリポートし、未来を占ってみたい。

 

ムークとは

 「ムーク」というのは”Massive Open On-line Courses (大量公開オンライン授業)”の略だ。講義の動画や資料をウェッブで配信、登録すれば無料で受講できる。通常の講義録画ではなく、実験デモなども交え、10分程度に短く編集されている。ミニテストで理解度を確認しながら3〜4ヶ月受講し、一定の成績を納めれば修了証が貰える。

 

 現況を見ると、スタンフォード大がまず発信源となり、マサチューセッツ工科大(MIT)とハーバード大が追撃する形となっている(以下、米国の高等教育専門誌「高等教育クロニクル」やWEB新書「オンライン白熱教室 超一流授業が無料! ムークが変える教育の未来」他による)。

拡大「ユダシティー」の事務所。技術者がビデオ講座の編集作業をしている=2012年12月

 まず元スタンフォード大の人工知能研究者が、いち早く「ユダシティー(Udacity)」を設立した( 開校は昨年1月)。理系に特化した少数精鋭の教師陣を擁する。著名人らが魅力的な授業で20講座を開講、すでに100万人超が受講した。立ち上げが一番早かっただけに、大学の代替機能というよりは「TEDトーク」など先行するインターネット文化の影響が濃いようだ (TEDトークとは、Technology Entertainment Designという会議が発信する、各分野のショートレクチャー)。

 「現在の大学教育では先端技術についていけない」「大学が育てる人材が、企業の求める人材と一致しない」というのが設立の動機という。大物投資家などが名を連ね、人材紹介のビジネスプランを推進する。つまり「XXの分野でトップ10の人材」など、求人側の要求にきめ細かく応えるという訳だ。

 

 続いて昨年4月開校したコーセラ(Coursera)も、スタンフォードの2教授が創始者。62大学、338講座、330万人超の受講生を擁する最大手だ。受講生の3分の2が米国外居住者だという。ただし修了率は7〜9%という数字もあって、これをどう見るか意見が分かれるところだ。

拡大エデックスのウェブサイト

 インパクトという意味では、MITとハーバード大が組んで昨年5月に開校したエデックス(edX)も無視できない。たちまち12大学、24講座に増え、1年で受講生は450万人超という数字もある。教材のオンライン化事業で大きく出遅れたMITの、起死回生の挽回策との見方もあるが。

 

 このようにまだ1年半足らずの歴史だが、状況はダイナミックに進展している。筆者もできるだけ新しい数字でと考えてホームページを参照するが、見る度に受講数などが膨れ上がっていて恐ろしいほどだ。

 社会人の側から見れば、先端の技術や知識に追いつくために、手軽に活用できる。他方大学にとっても、世界の受講者の得意分野を把握し、優秀な人材の獲得につなげるメリットがある。半面企業がムークを提供することも可能だから、同じ土俵で競争しなくてはならない。講師陣も肩書ではなく、教えるうまさで評価される。日本で言えば予備校のカリスマ講師のようなものか。

 しかし大学や受講生のレベルによって、影響や活用はさまざまだろう。

 

カルテックの取り組み

 そもそも筆者がムークに興味を持ったのは、

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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