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「値上げ」も「再稼働」も?―北電値上げ問題

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 北海道電力が電力料金の値上げを申請した。申請額は、一般家庭で約10%である。泊原発の運転停止で、代替の石炭・石油火力発電所の燃料代がかさんでいるという。私は、今回の値上げ申請に関して、検討すべき3つの基本的問題があると考える。

北電の経営戦略の失敗

 第1に、「値上げ」に至った経過と原因の問題がある。北海道電力は、福島の事故の直前に電力の44%を原子力に依存していた。そこで、原発3基の運転停止の影響を大きく受けた。原発の比率の低い中部電力は、今回、値上げを申請していない。北海道電力は、電源の多様化への努力を怠り、LNG火力発電もないという状況で、原発へ資金と人材を集中して、旧型火力発電の老朽化を招いている。かつて泊原発3号機の増設をめぐる、堀北海道知事時代の諮問委員会において、原発依存の高さや電源多様化の遅れがすでに指摘されていたのである。せめて、LNG火力発電所を建設し、ポテンシャルのある再生可能エネルギーへの道を歩み始めていれば、状況は大きく変わっていたであろう。

 このような意味において、今回の問題は、これまでの北海道電力の歴代経営戦略の失敗の結果であり、ここに至った経営方針の問題と責任を明らかにする必要がある。北海道最大の企業の1つである北海道電力は、このままでは、来年3月期中に債務超過に陥る可能性があるとすれば、これは北海道経済の危機でもある重大事態である。北海道民は、誰もそのような事態を望んでいない。そうであれば、これまでの経営戦略の失敗と責任を総括し、再建の方向性を明らかにする義務が北海道電力の経営陣にはある。

 不十分な経営・財務の公開性

 第2に、経営財務状況の公開性と透明性の問題がある。日本の9電力は地域独占と総括原価方式のもとで競争圧力がなく、石炭・石油、LNGなどを海外から購入するについても、世界で割高の価格で買い付けてきた。これができるのは、かかったコストをすべて電力代金に上乗せできる総括原価方式のためである。このために、電力コストの査定がこれまできわめて甘かった。民間会社と比べても高い給与水準、とくに幹部の高収入、独占企業であるので不要であると思われる広告宣伝費、様々な補助金が、全て電力代金に上乗せされてきたのである。さらに、東京電力の場合、電力会社は家庭用の電力料金(約25円/kWh)で利益の約9割を得ており、産業用とくに大口用は極めて安い価格で電力を提供されてきたのである(5円/kWhともいわれている)。北海道電力の場合は、約6割の利益が家庭用からといわれているが、その詳細は明らかにされていない。

 こうした財務会計の仕組みや詳細については、経済産業省の委員会レベルのチェックでは不十分であり、「やらせ」問題で第3者委員会をつくって事実解明が行われたように、独立性と専門性を備えた監査機関が、料金制度や財務の実態について、独自の調査を行い、問題点を解明すべきであろう。北海道電力の経営危機の実態を明らかにする意味でも、事態は緊急度をましている。

「再稼働」問題と料金値上げ

 第3に、泊原発の再稼働問題と料金値上げ問題の関連性である。そもそも、「値上げ」問題が起きたのは、原発への過度に依存してきて、原発の運転停止と代替燃料負担というところから起きた問題である。したがって、新しい安全基準のもとで、泊原発の安全対策がなされるまでは、その対価としての「値上げ」は、認めざるを得ないと、もともと考えられてきたのである。

 ところが、ここに来て、北海道電力は「再稼働」を前面に出して、その必要性を訴えながら、同時に「値上げ」も認めて欲しいという形で問題が提起されてきたのは、社長会見でも明らかである。そもそも「再稼働」問題は、これまでの不十分な安全基準と対策の問題であり、「再稼働」か「値上げ」か、という問題ではなく、独自の安全問題である。

しかし、北海道電力側は、泊原発さえ稼働すれば、全ての経営赤字問題は解消すると考えて、「再稼働」を熱望し、期待して、値上げ申請も遅れたのである。この点についても見通しの甘さがある。自民党政権のもとで、新しい原子力規制委員会が、厳しい基準を出して、実際に実施するかは、これからの大きな問題となるであろうが、国民の不安は根強く、「世界1の厳しい安全基準」というのであれば、相当のコストと時間がかかることは間違えなく、大きな政治的争点となるであろう。

 将来のエネルギー展望をめぐる公論、フォーラムの必要性

 そこで、北海道と道民に求められているのは、豊富な再生可能エネルギーを開発、利用し、北海道経済の活性化とつなげていくことであり、電力のみでなく、暖房用熱、交通機関用の石油燃料など、CO2発生抑制を展望するなかで、北海道の電力と熱エネルギーの短期・中期・長期の計画を立て、議論しあうことである。国・道・各自治体という上からの視点、取り組みとともに、市町村レベルでの下からの具体的なプロジェクトの両方が不可欠である。

 原発については、即時脱原発ではなくとも、原発への依存度を減らしながら、省エネをすすめ再生可能エネルギーを利用拡大していくことでの国民、道民の合意を得ることは、それほど難しくないはずである。この厳しい冬を原発なしで乗り切った節電への道民の努力と成果に確信を持ち、議論し、計画を立て、展望をもつことが是非、必要である。北海道などがイニシアティブをもって、ファーラムなどを是非、提案してほしい。危機は変革へのチャンスでもあるのだ。

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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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