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出生率回復、そして「みんなで休めば……」

 前回は、国民の祝日倍増政策がもたらす六つの効果のうち、五つまでを論じた。

 六つめは、それが少子高齢化社会の少子化にもブレーキになるのではないか、ということだ。
 6)おそらく出生率の回復にも貢献する……これは当初あまり意識していなかったのだが、最近の次のような印象的な出来事から再認識するようになった。

 私は大学で「社会保障論」という通年の講義を受けもっているが、先日、「少子化」をテーマとする話をした際、学生に小レポートを書いてもらったところ、日本の少子化ないし低出生率の大きな原因として「労働時間が長すぎ、子どもを生み育てる余裕がないこと」という点を挙げて論じる学生が予想外に多かったのである。

 たとえば、ある学生は「少子化の背景として未婚化、晩婚化が挙げられているが、その大元の要因は日本の労働環境にあると思う」と記し、少子化問題への対応策としてワークシェアの必要性を指摘していた。別の学生は「会社の労働環境を変えることが一番ですが、どのくらいのペースで変えていくかが問題です。育休が自由にとれるようになっても休まないのが当たり前の空気の中では、休みを取ろうにも取れませんし、会社も休みをとろうと思っている人間を採用しようとは思わないと思います。“空気”は本当にやっかいです」と述べていた。

 別のある女子学生は、最近就活をしている友人の例をひいていた。それは、面接で多くの会社が子どもを生むとしたらいつ生むかをよく聞いてくるので、ある会社にその理由を聞いたところ、「子どもがないってことはこれから生むでしょう? 休みとらなきゃいけないでしょう? 困るよ」と言われショックを受けたという話だ。嘆くべき日本社会の現実である。

 上記の「空気」の話にも見られるように、学生たちは、まだ実際に働いてはいないものの、日本の多くのカイシャがどういうところかをうすうす知っているようだ。とくに子育てとの関連ではやはり女子学生が鋭くその実態と「空気」のもつ抑圧性を感じている。

 以上、国民の祝日倍増政策がもたらす「経済」効果を6点にわたって述べた。

 若干補足すると、「労働時間が減る分、収入が減ることに人々は納得しないのではないか」という指摘があるかもしれない(これはワークシェアについても指摘される論点である)。しかしこの点については、国民の祝日を2倍にすることで、まさに人々が一斉に労働時間を減らすことになるので、かりに(労働時間が減る分)収入が多少減ることがあっても、その収入減自体も人々に共通のものなのだからさほど問題にはならない――つまり現代のように基本的な需要が満たされた社会で、人々が気にするのは所得の絶対額よりも他者との比較(相対所得)であるという近年の行動経済学などの知見――ということが言えるだろう。

 単純に言えば、「みんなで休めばこわくない」ということだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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