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「社員の発明は会社のもの」に?それはないでしょう<上>

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 安倍内閣が6月7日に閣議決定した「知的財産政策に関する基本方針」で、「職務発明制度の抜本的な見直し」が盛り込まれた。職務発明制度とは、企業の技術者の発明の権利は「原始的に発明者に帰属する」が、会社が「相当の対価」を払って自由に使って良いとするものだ。それを「例えば、法人帰属又は使用者と従業者との契約に委ねるなど、産業競争力強化に資する措置を講ずることとする」というのだ。これは明らかに技術者の立場を弱くする提案である。経団連は確かにこういう主張をしてきた。しかし、政府がそれを丸呑みすることはないではないか。そもそも従業員は、会社に対して弱い立場にある。それをさらに弱くして産業競争力を強化しようなんて、そりゃ無理というものだ。

拡大青色発光ダイオード特許訴訟の記者会見で笑顔を見せる中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授=2004年1月30日

 「職務発明」なる用語は、青色発光ダイオードの発明報酬をめぐる裁判で初めて知ったという人が多いと思う。中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授が、開発時に勤務していた日亜化学工業を相手取り20億円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こしたのは2001年8月だ。中村氏は特許1件について「出願時に1万円、登録時に1万円の計2万円を受け取っただけ」で、この発明で会社が得た利益に比べて余りに少ないと記者会見などで熱弁。技術者たちの共感を集めたのだった。

 当初、中村氏側は「会社の研究中止命令を振り切ってやった研究なので、特許法35条で規定される『職務発明』ではない」と主張した。自分で勝手にやったのだから「自由発明」だというわけだ。そうであれば、権利はすべて発明者のものになる。一方、「職務発明」の場合は、会社の命令に従って会社の設備や資金を使って研究した成果なので、実際上の権利は会社のものになる。ただし、発明者には「相当の対価の支払いを受ける権利がある」と特許法に規定されている。発明の権利は原始的に発明者に帰属するという「発明者主義」を日本の特許法はとっているからだ。

 「職務発明じゃない」という中村氏側の言い分は、東京地裁の中間判決で認められなかった。次の焦点は、では「相当の対価」とはいくらなのか、である。中村氏側は請求額を200億円までに増額した。東京地裁の三村量一裁判長は、中村氏の貢献度を「50%は下らない」とし、会社の独占利益を「1208億円」と算定して、その半額604億円の支払い義務を認定した。ただし、中村氏側が200億円しか請求していなかったので、200億円の支払いを命じる判決となった。

 会社側は即座に控訴。東京高裁は、他の同様の訴訟例などを踏まえて貢献度を5%と判断、約6億円(利息を加えると約8億4000万円)の支払いでの和解を2005年に成立させた。

 この訴訟提起を一つのきっかけに

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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